トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol.5 有田陶器市(2002年)
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 毎年4月29日から5月5日まで一週間開かれる有田陶器市も回を重ねて、ことしで99回目を迎えた。

 佐賀の人たちには身近すぎて、いまさら感激ないだろうが、改めて考えてみると、有田という、日本を代表するやきものの産地が町ぐるみで、他に例を見ない大規模な「市」を毎年開いて、それが約100年も続いているのは大変なことなのである。
 であればこそ、この一週間、ふだんは静かなこの町が、県外客を含めて約100万の人であふれ、大型連休中のイベントとしては日本有数の集客力を誇っているのである。
 明治29(1896)年、有田の有力者、深川栄左衛門らが開いた陶磁器品評会がそもそもの起こりだという。その後、その品評会と期日を合わせて蔵ざらえの大売り出しを行うようになったのが陶器市の始まりということだ。

 私が子供のころ、というからすでに40〜50年前、母親によく連れられて行ったものだが、現在も多く家族連れを見かける。言ってみれば、老若男女が集う大きな「祭り」なのだが、やきものの「買い物」を主としていることが大きな特色となっている。帽子、スニーカーにカジュアルな服装、リュックというのがお定まりの装いのようだが、中にはやきもののキズを調べるための軍手を用意している慣れた人たちもいる。日常の使用には何ら支障のないキズを言い立て、値切って買うことが陶器市の楽しみの一つなのである。

 期間中、駐車場確保のために暗いうちから訪れ、車中で仮眠、その後、無料で振る舞われる朝粥や呉豆腐(碗も貰える)などを楽しむ人も多いとか。昔はそうでもなかったが、近年、ようやく町の人が客への対応に意を注ぐようになったようで、うれしい。

 表通りに4キロにわたって立ち並ぶ店々を見て歩くのもよいが、一歩路地などに踏み込んでみると思わぬ掘り出し物が見つかる場合がある。また、期間中、恒例の九州山口陶磁展(先に挙げた陶磁器品評会の流れ)ほか、さまざまなイベントが催されている。やきものに飽いたら、町を少し外れて、季節柄、ツツジや若葉の美しい風景を楽しめばよい。
 陶器市を機会に、有田という町の懐の深さを多くの人に知ってほしいと願っている。
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photo ■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、
「必冊 池波正太郎」等
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