ゴールデンウィーク初日、唐津の陶芸作家・中里太亀さん(隆太窯)の展覧会に出かけてきました。場所は唐津城近くにある旅館「洋々閣」です。こちらは100年以上の歴史を誇る老舗旅館で、風情の漂う白壁に格子の建物がひときわ目をひきます。旅館内には隆太窯の中里隆さんとそのご長男である太亀さんのギャラリーがあります。こちらで本日の展覧会が開催されていました。お話を旅館のご主人である大河内明彦さんにお伺いしました。
中里さん親子は毎年交互に、こちらで展覧会を開催されているそうです。今回の中里太亀さんの作品は主に、食器を中心に花入や茶道具など約150点が展示されていました。「太亀さんは、仕事が丁寧な方で高いろくろ技術をお持ちです。『作品の印象がモダン』、と言われる方が多いのですが、これはその技術の上になりたつ無駄のないフォルムから生まれてくるのではと思います。」と大河内さん。唐津焼というと「豪快で野趣がある」というイメージがありますが、確かに中里さんの作品はそれだけではありません。器の全体が思ったより薄く整えられており、手に持つとしっくりなじむ軽さです。使い勝手が良いようにでしょうか、縁の部分は心持ち厚めになっていて手を添えたり口をあてる時に安心感があります。
洋々閣では隆太窯の器でお料理を出されているそうです。大河内さんによると使う人だけでなく料理する人にも、配慮された器だとか。「料理人の方が言われるには、100%完成された器でないところが魅力だそうです。1%を盛り付ける人のために残されている。料理が盛り付けられたり、花が生けられたりすることで完成され、器も同時にひきたつのです。」
花入の作品には実際に花が生けられて、その魅力が良く伝わってきます。「南蛮掛花入」は丁度、鳩の胴の形のようにしています。なめらかな曲線が、直線で構成されている日本的な家屋に優しい空間を作り出しているようです。「斑唐津茶碗」は腰の部分がふっくらとしており、ゆっくりとした時間を楽しめそうな雰囲気です。肌の色はグレーと薄い緑・青が微妙に交じり合っていました。
茶碗や向付などの伝統的な器の中で目をひいたのが「粉引ピッチャー」です。高さが25〜6センチぐらいの作品で縁の部分は片口のように整えられています。大き目の器ですが全体が柔らかい乳白色なので、他の器と並んでいても圧迫感がありません。
作品を楽しんだ後、中里さんの窯場におじゃましました。ちょうどろくろを挽いていらっしゃるところで、手のひらに乗るくらいの向付を制作中でした。向付ですと1日で200個ほど挽くそうです。「今回は日常で唐津焼を使ってもらいたくて、食器を中心に制作しました。形は昔からある唐津焼から、自分が気に入ったものを選んで発展させています。でも食器は使うものですから、必ず何を盛り付けるかを想像しながら制作しますね。」と中里さん。
今後の抱負をお伺いしたところ、来月に東京での個展をひかえているとのこと。こちらの作品展も食器がテーマとのことですが、ちょっとおもしろい入れ子の器を考えているそうです。大きな片口の中に小鉢、その中にぐい呑みというセットを構想中。五客物を買う人が少なくなって、自分だけの器を単品で買い求める人が多くなってきたところからの発想だそうです。また入れ子にすることで小スペースで収納できるのもポイント。「今、模索中で形をどうしようかと悩んでいるんですよ。」と太亀さんはおっしゃいますが、お顔はわくわくされている様子です。ついこちらも、入れ子の器を想像してみましたが、何やら楽しい雰囲気が伝わってきます。個展「中里太亀 食器展」は東京銀座・万葉洞 七丁目店にて5月15日〜5月30日開催予定とのこと。お近くの方はおでかけになってはいかがでしょうか。
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