イメージ
イメージ



■唐津・田中佐次郎展
<会期:平成13年7月10日〜7月15日>
平成13年7月10日

会場photo 東松浦郡山瀬で作陶されている唐津焼作家、田中佐次郎さんの展覧会が県内では5年ぶりに開催されると聞き、楽しみにして出かけてきました。場所は佐賀の老舗百貨店「佐賀玉屋」のギャラリーにて開催。会場に入ると紋付袴姿の田中さんが出迎えてくれました。展示作品は田中さんの作品が15点ほどと、窯ものの作品が60点ほどあり、花入には夏らしい草花がアレンジされていて、落ち着いた作品の色合いを一層ひきたてていました。
お話をして下さる田中さん。 唐津焼というと「豪快」「男性的」といった印象がありますが、会場の作品からはちょっと違う印象を受けました。「一般の方は確かに唐津というと『豪快さが特徴』と思われますが、唐津にも様々な土があるので、決してそれだけにはとどまらない表現があるわけです。唐津焼に、はまっていらっしゃる方はそういったところに魅了されているのだと思いますよ。私もその一人ですが。」とにこやかに話される田中さん。今回の展覧会のテーマは「食器」ということで、向付や板皿、徳利やぐい呑を中心とした作品構成になっていました。

斑唐津山瀬五客向付 小振りながら美しい釉の変化でひきつけられたのは、「斑唐津山瀬五客向付」です。素地の風合いが感じられるような薄めの釉で、微妙な青味がかったグラデーションがあります。高台を見ると白っぽくさっくりとした品のある土味がうかがえました。ところどころに溜まった青味がかった乳白色の釉が、まるで土をやさしく大事に包みこんでいるような気がします。「私が使う山瀬の土は鉄分が少なく、白い色が特徴です。また釉肌も上品な雰囲気に仕上がりますね。これも唐津の中の『山瀬のスタイル』といったところでしょうか。」という田中さんのご説明に、私がまだ知らなかった唐津焼の魅力を垣間見たような気がしました。

斑唐津徳利・絵唐津ぐい呑 徳利やぐい呑も数点展示されており思わず手にしてみましたが、どれも軽やかな印象で肩肘張らず使えるといった感じです。斑唐津の徳利は乳白色の釉と、すりガラス越しに見えるような土肌が落ち着いた雰囲気を漂わせています。絵唐津のぐい呑は薄手にできており、土色の変化もはっきりとわかります。「器にとって我々作家は『生みの親』。使う人は『育ての親』になるのです。使うことによって器が本来持っている、外見からは見えないものがにじみでてくるのだと思います。それを『侘び』というのではないでしょうか。」との田中さんの言葉に、「私もそういった体験ができれば」と作品を手に取らせていただきながら、育っていく器の様子に思いをはせました。

斑唐津山瀬茶碗の見込み部分 食器の他に3点の茶碗や数点の花入も展示されており、茶道をされているというご婦人が熱心に鑑賞されていました。朝鮮花入その中のひとつ「斑唐津山瀬茶碗」は口部の直径が16cm程なのですが、上からみると見込みがとても広く感じられ、すいこまれそうな奥行きを感じさせます。「朝鮮花入」は黒っぽい飴釉の上に白っぽい藁灰釉がかかっています。ふっくらとした胴体が少しユーモラスで、ほっと和める花入です。
正面から見た「寿老人」 作品のキャプションを見ていて、「うずくまる」という言葉の意味がわからなかったので田中さんに質問しました。「『うずくまる』はその名の通り、人がうずくまっているように見えることからきています。」と、この他にも面白い名称を田中さんから教えていただきました。例えばこけし人形のような形をしている花入は「寿老人」。正面からみると、本当にふくよかな笑顔が見えてくるようです。壁に掛けられた「竹枕」また壁にかけてあった花入は「竹枕」といい、戦国時代に武士たちが竹を枕がわりに使っていたのを模した形だと教えていただきました。ちょっとした言葉の意味がわかると、また違った角度で作品を鑑賞できます。この他にも絵唐津の皿や湯呑みといった窯ものもありました。

 今回の展覧会を鑑賞して、こんなに穏やかで優しい唐津焼もあるのかと新しい発見をしました。「優しい」と表現したのは「見る人を自然に受け入れる」といった印象を受けたからです。田中さんの作品は上品で凛とした佇まいを感じさせますが、気取りがなく思わず近づきたくなるような親しみを持っていました。まだまだ知らない世界がたくさんあるのだなと思いながら会場を後にしました。

■取材雑記
 もともと田中さんは佐賀の方ではなく、福岡のご出身とのことでした。20代後半に発掘調査に携わってやきものに興味を持たれ、この道にすすまれたのだそうです。「きっかけなんて、日常の些細なところにあるんですよ。」と笑顔で話される田中さんの言葉に、毎日を流されるように過ごしている自分を気付かされました。

●佐賀玉屋ギャラリー(南館6F)
【所在地】佐賀市中の小路二番五号
【電 話】0952-25-6579(直)
【駐車場】