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寄贈記念「THE LAST EXHIBITION
柴田コレクション展パート8
―華麗なる古伊万里の世界―」その2

<会期:平成14年10月4日〜12月1日>
平成14年10月4日

 佐賀県立九州陶磁文化館にて開催の柴田コレクション展。今回は引き続き柴田コレクション展の模様をお伝えします。パート8の展示は、江戸初期から幕末までの古伊万里の変遷を、順を追った8つのコーナーに分けて展示。最後の9つめのコーナーでは、参考作品として中国陶磁の作品が展示されていました。今回は前号に続き第五のコーナーからご紹介します。

 第五のコーナー「5.国内向け古伊万里の多様化」では、国内向けに生産された品を中心に展示されていました。18世紀中頃になると海外貿易が衰退し、国内向けの古伊万里製品内容が多様化していくのだそうです。陽刻を施した皿や鉢。また蓋付碗やそば猪口などが一般化していくのもこの頃だそうです。
そして18世紀末頃からは、中国清朝磁器の影響を強く受けた製品が登場。第六コーナー「6.中国の影響の高まり」にて、それらの作品が紹介されます。このコーナーで皆さんが足を止めらていたのは「色絵弾琴山水文輪花大皿(1790〜1830年代)」という口径40cm近い大きな作品。赤や緑、金、黄、青といった色とりどりの上絵具にて華やかで繊細な絵付けが施されています。学芸係長・家田さんの説明によると、これらの上絵具は18世紀末ごろから中国清朝磁器の影響を受けて、肥前地区の磁器生産でも用いられるようになったのだそうです。そういった意味でもこの作品は、古伊万里が受けた中国磁器の影響を示す代表的な作品のひとつでもあるのだとか。
 「このころになると、器のデザインも実用的になってくるんですよ。」と家田さんが示されたのは「色絵獅子紗綾形文段重(1780〜1820年代)」という重箱。獅子の顔を正面から見て、ちょっとユーモラスにデザインされています。重なった器ひとつひとつをよく見ると、すべて同じ絵柄でつくられています。「これだと、ひとつ割ったりなくしたりしても、引き続き使用できますよね。第三のコーナーで登場した染付撫子牡丹唐草文段重などは、すべて揃って初めてひとつの絵柄が完成する訳だったのですが。」学芸員の方のお話を伺いながら鑑賞すると、自分では見落としがちな点まで発見でき、とても楽しいものです。他の方も「言われないと気づかないね。」となんだか楽しそう。

 次コーナーでは「7.大衆文化時代の高級磁器」をテーマに18世紀末から19世紀初めの作品が展示されています。ここで大橋副館長と家田さんが是非注目していただきたいとおっしゃる作品があります。華やかな色絵の作品「色絵松竹梅鶴文輪花大皿(1804〜1818年代)」です。この作品の高台裏を見ると、「今泉平兵衛」と染付で銘が書かれています。この「今泉平兵衛」は、現在の今右衛門窯の今泉今右衛門氏の祖先で、七代目にあたる人物だそうです。今泉家は赤絵屋として活躍していましたが、この時期の作品で、このように銘が入っているものはたいへん珍しく、作品としてはもちろん資料的にも大変価値のある古伊万里とのことです。

 この「今泉平兵衛」の銘がある作品と、前回「行ってきました見てきました」でご紹介した「染付菊花文嗽(うがい)碗」と並び資料的に注目する作品がもう一点あります。「8.他産地磁器との競合へ」と19世紀の作品を紹介したコーナーに展示されている「染付山水文散蓮華形鉢(1840〜50年代)」です。ちょっと変わったおもしろい形の作品ですが、その名の通り「れんげ」をかたどったものです。れんげはれんげでも、これは両手で持つくらいの大きさ。「この作品の裏面を見てください」と大橋副館長の言葉で、目を移すと染付で「酒井田 柿」と銘が書かれています。この作品も前出の作品と同じく、珍しく銘が入った作品で、こちらは柿右衛門窯でつくられていたものだそうです。なんと現在の柿右衛門窯にこの器の形と同じ「土型」が残っているとのことで、今回同時に展示がなされていました。
ところで、このユニークな器はいったいどうやって使用されていたのでしょうか。「料理を盛りつけたのかしら。どんなお料理用なのかしら。」と思わず想像を膨らませてしまいました。

 最後のコーナー「10.参考・中国陶磁器」では、柴田氏が古伊万里を蒐集するときの参考や勉強のためにと同じく集められた、中国の古陶磁が並んでいました。全1722点という過去最高数の作品が展示されているこの展覧会。古伊万里の歴史を一堂に垣間見ることができ、ファンにはたまらない展示となっていました。また多彩な文様の器や、日用品として使用された器も多く、どなたが見ても楽しめることと思います。初日には現役の陶芸作家の方も多く鑑賞されており、「こんな手のこんだ物をどうやってつくったんだろうね。今は便利な道具や失敗の少ない用具もあるけれど、その当時の技術の高さに驚く」と語っていらっしゃったのが印象的でした。学生風の若い人も多く、文様の組み合わせをメモしたりスケッチしながら鑑賞をされていました。
 柴田ご夫妻からのご挨拶で「この古伊万里を後世に残して伝えるだけではなく、ここから読みとれる何かを生かしていただき、今後の有田窯業界の発展を強く望みます」との言葉の重みをしみじみと感じました。

■お知らせ
会期中以下のイベントが予定されています。

○記念茶会「柴田コレクション展パート8記念茶会」
期  日:平成14年10月19日(土) 午後2時〜4時
場  所:九州陶磁文化館 茶室「せつせん庵」

○シンポジウム「古伊万里・現代・未来」
期  日:平成14年11月9日(土) 午後1時半〜3時
場  所:九州陶磁文化館 講堂
パネリスト:柴田明彦氏 大橋康二副館長 他

●佐賀県立九州陶磁文化館

【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日(柴田コレクション展パート8会期中は無休)