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14代中里太郎右衛門襲名記念展
<会期:平成15年7月25日〜平成15年7月27日>
平成15年7月28日

 こちら佐賀の梅雨明けもそろそろかという7月25日に「14代中里太郎右衛門襲名記念展」へ出かけてきました。場所は唐津シーサイドホテル。海風を受けながら、国の特別名勝にも指定されている、虹の松原を周囲に見渡すことができる同会場。中里太郎右衛門さんは昨年3月に14代を襲名し、地元で本格的な個展を開催されるのは初めてとのことで、初日オープン時からたくさんの唐津焼ファンが駆けつけていました。
 会場には、太郎右衛門さんがライフワークとして取り組んでいらっしゃる「掻き落とし」と呼ばれる技法の作品に加え、「叩き」・「朝鮮唐津」・「粉引き」など唐津焼の伝統的技法の作品が並んでいました。茶道具を中心に、飾り壺や酒器など約150点が並びます。「今回、地元での個展ということで、一年半ほどかけて作品に挑戦してきました。」と太郎右衛門さん。

 会場でまず目をひくのは「掻き落とし」技法を用いた「叩き唐津白地黒掻落し壺」。たっぷりとした量感の壺に、たおやかに咲く牡丹の花が「掻き落とし」技法によって表現されています。「掻き落とし」技法とは、生乾きの素地(きじ)に黒色の土を塗り、一部を削り取り文様を描くという装飾法です。
今回の個展を楽しみにしていましたという、男性ファンの方は「この作品を見ていると、白黒なのに何だか牡丹の色まで見えてくるようですね。」と熱心に観賞されていました。
 同じ「掻き落とし」技法の作品「唐津緑白地黒葉文掻落とし瓶」は、白地の部分に緑色の釉が施された、エキゾチックな雰囲気の作品です。これは一度焼成した後、透明感のある緑色の釉を低火度にて再度焼成したのだそうです。ガラスを思わせる透明感が魅力の緑色と黒い色の対比に見とれます。「どの作品づくりでもそうなのですが、なかなかコレというものを生み出すのには時間がかかるものです。一回窯を焚いてもコレというものは1点あるかないか。しかしそれを積み重ねることで、何か自分にとってつかめるものがあるのではと思いますね。」と静かにそして丁寧に語る太郎右衛門さん。

 次に注目したのは「叩き」技法の作品。「叩き」技法は、粘土を紐状にしたものを輪積みし、内側に当て具をして、外側から叩き締める成形法。叩き用の板で器表をならしていくため、板に刻文が彫られていることから、器表面にその文様が残るのが特徴です。唐津焼の古くからある技法のひとつ。太郎右衛門さんによると、「叩き」作業をしていると、制作している時の気持ちがダイレクトに作品に伝わるのだとか。
「気持ちが反映されるというのでしょうか。土を叩くときの私の気合が、そのまま叩いた跡になるといった方が近いでしょうか。迷いや不安があると、やはり叩いてもどこか締まりのない仕上がりになってしまいます。ろくろももちろんそうですが、こういった所が叩き技法のおもしろさなのかもしれません。そしてその一つ一つの叩きの結果によって、全体の形が出来上がっていくので、気持ちと造形がまさに連動しているようですね。」との太郎右衛門さんのお話を伺った後、再度私も「叩き焼き締壺」を観賞しました。まずは全体の形、そして近づいて表面の叩き跡を見てみました。全体のゆったりとした器形とはうらはらに、器の表面は固くきっちりと引き締まっている様子がわかります。かなり土が締まっているので、大きさの割にはとても軽いのだそうです。

 様々な技法の作品が並びますが、茶碗・花入・水指などの茶道具を中心としたものでした。特に茶碗は様々な技法を用いたものが並んでいました。断わりを言って、実際に手にとって見る人も。私もお許しをいただき、いくつかの茶碗を手にとらせていただき、見込みや高台などじっくり観賞しました。直接作家さんにお話を聞いたり、実際に手にとって観賞したりできるのも個展の大きな魅力でもあります。「茶碗については、井戸茶碗を極めてみたいと思います。ほぼ毎日のようにろくろにむかいながら、井戸に取り組んでいます。」と太郎右衛門さん。
 「毎日を試行錯誤することで、現在取り組んでいる線上に次なる作陶のヒントが得られるのではと思います。そこからおのずと道は開けていくのではと感じているのです。」との太郎右衛門さんの言葉が深く印象に残る個展訪問でした。

※ご注意:個展にても作品を触れるのを禁じている場合もあります。手にとる際には必ず係りの方、作家さんに了承を得てからにしましょう。

■取材雑記
太郎右衛門さんが14代を襲名される以前に、取材させていただいたことがあります。その時に「名護屋城での献茶式用の2000個の茶碗づくりをきっかけに、唐津焼の伝統と向き合う覚悟ができたような気がします」とお話されていたことを思いだしました。「今でもそう思いますよ。あの時の試行錯誤は実にいい勉強になりました」と笑顔の太郎右衛門さんでした。


●中里太郎右衛門陶房
【所在地】唐津市町田3丁目6の29
【電 話】0955-72-8071
【駐車場】有

●唐津シーサイドホテル
【所在地】唐津市東唐津虹の松原
【電 話】0955-75-3300