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「一ノ瀬泰造写真展 〜有田の匂い〜」
<会期:平成16年11月20日〜12月19日>
平成16年11月20日

 こちら九州も紅葉が美しい季節となってきました。毎回このコーナーでは、陶磁器の展覧会をご紹介しておりますが、今回はちょっと角度を変えてやきものの町「有田」を見ることができる展覧会をご紹介。
有田町の近隣・佐賀県武雄市出身の戦場カメラマン・一ノ瀬泰造さんが撮影した有田の街並みや陶磁器の製作風景をとらえた写真展で、有田町歴史民俗資料館で開催。

 一ノ瀬泰造さんは「地雷を踏んだらサヨウナラ」という言葉を残して1973年にカンボジアの戦闘地域で消息を絶ちました。最近では「地雷を踏んだらサヨウナラ」の同名の映画も公開され、ご存知の方も多いことでしょう。また一ノ瀬さんの仕事に対する情熱や熱意に対し、あこがれや共感を覚える人も多く、幅広い世代にファンが多いことでも知られています。今まで一ノ瀬さんの写真展は数多く企画されてきましたが、「有田」のみの作品を集めた写真展は初めてとのことです。一ノ瀬さんがどのような視点で「有田」や「やきもの」をとらえていたのか、また「戦場」とはほど遠いのどかな「有田」に何を感じて撮影されていたのでしょうか。

 会場に入ると、初公開の写真も含め100点の作品がずらりと並びます。初日、朝早くから町内の方やファンの方がかけつけ、会場はたくさんの方で賑わっていました。展示作品は、有田町歴史民俗資料館の学芸員でこの展覧会を企画されたの尾ア葉子さんと親族の方が、膨大なフィルムの中から選定し、今回の展覧会のために親族の方によって現像されました。
のどかな有田の風景、古窯跡の発掘調査の様子、また有田陶器市の賑わいや、老舗窯元の工房など幅広い「有田」の様子が並びます。また作品には、一ノ瀬さん自身のメモや記録からそのまま転載されたキャプションも付いており、興味深く鑑賞することができます。
 一ノ瀬泰造さんは昭和22年武雄市に生まれ、昭和41年に日本大学に入学し大学卒業後UPI通信東京支局に勤務。その後退職し、フリーカメラマンとしてベトナム戦争などの様子を取材。各雑誌掲載や、UPI月刊賞を受賞するなど戦場カメラマンとして活躍されます。しかし昭和48年、「地雷を踏んだらサヨウナラ」の言葉を友人に残し、単身でアンコールワットに潜入。その後消息を絶ってしまいます。
 一ノ瀬さんは大学入学から5〜6年の間に、帰省の折や戦地からの一時帰国の際には有田へ出向き、撮影を続けていました。戦地から一時帰国されたある日、母親の信子さんに「『有田』はぼくのライフワークだから、これからも又帰ってきて、ずーっと撮り続けるからね!」と言っていたそうです。
歴史があり、連綿と続くやきもの産地を前に「今の有田人も新しい試練を克服し、新しい有田をつくっていくにちがいない。」・「その有田の街の煙突からは今日も煙が立ちのぼり、焼物のかおりを漂わせる。」という言葉を記されています。
何百年もの間、やきもの生産というひとつの産業を続けてきた街やそこで働く人の営み、何もないところからモノがつくられていく様に魅力を感じられていたのでしょうか。

 古窯跡の発掘調査を撮影した作品には、窯の細やかな様子や歴史的背景、また窯道具用語の由来などかなり詳しいメモを残されており、有田ややきものをただの被写体としてではなく、深い理解と興味をもって撮影されていた様子がうかがえます。窯跡からごろりと出てきた陶片のそばでもくもくと発掘する男性たちや、陶片を丁寧に観察している研究者の姿など発掘で沸き立つ思いの人たちの姿を静かにそしてしっかりととらえた写真です。
 有田陶器市の写真からは、傘をもって買物をしていた女性が思わずやきものを落とし割ってしまったところや、せり売りで賑わう人垣とそれを遠まきで見守る人たち、買物に夢中のお母さんの横で、ほったらかしにされているのか、だまって一人で座っている子供などを見ることができます。その当時の有田の風景や陶器市の様子をうかがいしることができる資料としても貴重なものです。
 また今右衛門窯さんの工房の写真には、手前に積み上げられた製作途中の作品、そして画面奥にはもくもくと絵付けをする職人さんの様子を見る事ができます。「この道の年輪を偲ばせる確かな筆運びにあざやかな朱や青が浮かびでてくる。」という一ノ瀬さんの言葉からは、何もないところから次々に美しいものが生まれてくる生命力のようなものを、やきもの生産に感じていたのではと思われます。


 「ひとつの構図の中に「静」と「動」が含まれているところが興味深いですね。」と学芸員の尾アさん。確かに何気ない風景の中や伝統的な街並み、やきものの製作風景の様子には、その二つの要素が必ずといっていいほど含まれています。そして人の手によって生み出される「モノ」から感じられる「生命力」の力や姿。
 のどかな有田の風景は、戦地とはほど遠い印象を受けますが、人間の営みの中にある何か共通したものを一ノ瀬さんは感じとっていたのではないでしょうか。ひと味違う角度で「やきものの街」を見る事ができ、また今後の伝統工芸品の生き残っていく道筋さえも考えさせらてしまいました。戦場風景の写真は一切ない展覧会ですが、「生と死」を見つめてきた一ノ瀬さんの視点から見たやきものの街・有田を確実に垣間見ることができる展覧会です。



■お知らせ
会場の歴史民俗資料館では、一ノ瀬さんに関する書籍や写真集などを販売しております。詳しくは会場にてお問合せください。
・一ノ瀬さんのオフィシャルホームページはこちら→


●有田町歴史民俗資料館
【所在地】西松浦郡有田町泉山1-4-1
【電 話】0955-43-2678
【駐車場】有
【休館日】月曜日