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SAGAの若手陶芸家4人展
「平成14・15年度九州電力工芸家国内外派遣研修生作品展」

<会期:平成17年2月7日〜2月12日>
平成17年2月7日

 今回の「行ってきました見てきました」は、九州電力株式会社佐賀支店内にあるイリスギャラリーで開催の「SAGAの若手陶芸家4人展」へおじゃましました。これは九州電力株式会社が実施している「工芸家国内外派遣制度」にて、平成14・15年度に研修を受けられた佐賀県内の陶芸作家4名の作品展です。
まずは、「工芸家国内外派遣制度」についてご説明しましょう。九州電力さんでは、芸術やスポーツなどを通して地域貢献事業を実施されていますが、そのひとつがこの「工芸家国内外派遣制度」。これは九州の優れた伝統工芸品の維持継承や保存のため、九州の若手工芸家を国内外に派遣し、伝統工芸に関する知識や技術習得を支援するものです。地域に密着した同社の取り組みならではの事業で、この制度は平成8年から実施されています。これまでに陶芸はもちろん、博多織や竹細工・大島紬といった様々な九州の伝統工芸の若手作家を支援してきました。
今回開催される展覧会はこの制度や、この制度で研修を受けた工芸家の方々の研修成果や活動内容を一般の方にも広く知っていただこうと、今年初めて開催されるものです。会場となったイリスギャラリー内には、平成14・15年度に研修を受けられた陶芸家・金ヶ江省平さん(有田焼)、溝上良博さん(唐津焼)、梶原靖元さん(唐津焼)、副島孝信さん(伊万里・有田焼)の作品と研究内容が展示されています。

 平成14年度研修生の金ヶ江さんは、「朝鮮白磁の作陶技法の習得」をテーマに韓国にて研究。実は金ヶ江さん、日本で初めて磁器焼成を成功したとされている李参平のご子孫で、韓国での技術研修終了後も、初代李参平の研究を続け、登り窯を使って初期伊万里を復刻すべく作陶活動を行っていらっしゃいます。またこの2月には伝統工芸士としても認定され、活躍が期待される若手作家の一人です。


 同じく平成14年度研修生、溝上さんは、「釉薬と素地」を中心とした研究で、アメリカ・ニューメキシコ州へ。これまでも唐津焼作家として活躍されていた溝上さんですが、日本の伝統釉にはない新しい釉の開発、また日本とアメリカの陶芸文化の相違点の研究を行い、伝統に新しい風を吹き込めないかとこの研究に挑戦されたそうです。会場には、様々な土や釉薬によるテストピースの焼成結果見本が並び、詳細な研究結果が報告されています。

 平成15年度研修生・梶原さんの研究テーマは「古唐津のルーツを探る」。梶原さんはこのテーマをライフワークにもされており、この研修事業以前にも、李朝陶磁器を学びに韓国にて研究をされています。今回の事業では慶長の役の折りの「北上経路図」や、韓国の陶芸家から収集した情報をもとに、窯跡を訪ね、様々な陶石による焼成を繰り返し、古唐津の焼成法などを調査。「古唐津は生活雑器としてその堅牢さに優れているのですが、陶石の成分の違い、また焼成温度によっても、出来上がりが随分違ってきます。」と梶原さん。日本と朝鮮半島の様々な陶石の成分を分析し、自身の作陶にもその研究成果を取り入れていらっしゃいます。初日は、梶原さんによる蹴ろくろの実演も実施。
 同じく平成15年度研修生の副島さんは、今回の研修生の中で一番若手。佐賀県立窯業技術センター陶磁器部デザイン室助手を務めたのちこの研修に参加。ドイツにおいて「機能的なデザインの研究・技術習得」をテーマに、ドイツ・ハレ大学セラミックス科に短期留学。主に小規模な窯元製作におけるプロダクトデザインのアプローチ方法などを学ばれたそう。「日本とドイツでは陶磁器に対する捉えかたが違い、最初はとまどうこともありました。しかしドイツの合理的な考え方や、日本とは違う視点の磁器の機能美追求に、新しい発見があり物作りに対する視野が広がったと思います。」と副島さん。例えば、日本では染付のにじみや形の歪みなども「味わい」として受け入れられるのですが、ドイツではそういった個体の違いは許されないとか。また日本の磁器では、カーブの美しさを追求した成形が主流ですが、ドイツでは直線的な硬質感のある美しさも同居しているそう。そういった形の美しさを生かしたサンプル作品や、スタッキングに優れた副島さんの作品が展示されています。
会場では4人の皆さんによる研究報告書の閲覧もでき、研究成果全般を知ることができます。

 この展覧会を見て、今までとは違う視点、別の環境で取り組むことで、新しい視点からの伝統工芸の在り方や生産方法などが芽を出す一つの試みではないかと感じました。今回、九州電力では「工芸家国内外派遣制度」の研究成果を一般公開するのは初めてとのことで、より多くの方に地元工芸の魅力や、継承のお手伝いをしながらその大切さを伝えていければということです。今回の展覧会をもとに、今後様々な形で一般公開していければとのことでした。企業における社会貢献や社会責任といったものが、さかんに問われる今日ですが、より地元に密着したこの事業を活用してより多くの伝統工芸の魅力が花咲くことを期待したいものです。


■お知らせ

展覧会の期間中1日2回(11:00〜12:00/14:00〜15:00)、研修生指導によるろくろ体験教室が開催されています。
また2/11・2/12(12:00〜)には、研修生による器を使ったお料理の試食会も催されるそうです。(料理なくなり次第終了)
実は私も今回の取材で、初めて蹴ろくろを体験してきました!唐津焼作家の梶原さんの補助を受けながらなんとか形ができたものの、最後の切り離し時に、成形したものをぽとんと落としてしまいました(残念)。


●九州電力株式会社佐賀支店 イリスギャラリー
【所在地】 佐賀市神野東2丁目3-6
【電 話】 0952-33-1257
【交 通】 JR佐賀駅から徒歩3分
【駐車場】 有