イメージ
イメージ

吉野ヶ里遺跡 発掘のあゆみ 〜解明された弥生のクニ〜
<会期:平成19年1月1日〜平成19年1月28日>
平成19年1月13日

 「吉野ヶ里遺跡」を皆さんはご存知でしょうか?佐賀県神埼市と神埼郡吉野ヶ里町にまたがる「吉野ヶ里遺跡」は、学術的に価値の高い弥生時代の遺跡。現在は「国営・佐賀県立吉野ヶ里歴史公園」として一般に公開され、年間50万人にものぼる来園者が訪れています。
佐賀県立美術館では新春の企画展として、この吉野ヶ里遺跡を紹介する「吉野ヶ里遺跡 発掘のあゆみ 〜解明された弥生のクニ〜」展が開催。

吉野ヶ里遺跡の発掘は昭和61年(1986)に開始され現在も続いていますが、今回のこの展覧会では、これまでの発掘調査の経過や成果を紹介。このような遺跡発掘を紹介する展覧会では一般的に複製品が用いられるケースが多いのですが、今回は国の重要文化財をふくめて実物が多数展示されていることから、考古学ファンの注目を集めています。
私は1月13日に開催された展示解説会に参加してきました。それでは展示のなかでも主に「土器」をメインに紹介いたしましょう。

▲「頭部のない人骨」が入った甕棺
 吉野ヶ里遺跡の存在は、大正時代から地元の研究者の間でささやかれていましたが、昭和61年から本格的な発掘調査が始まり、日本最大級の環壕集落や墳丘墓が発見されるやいなや全国的に注目されるようになります。
墳丘墓には権力者たちの墓が埋葬されているそうですが、この埋葬に使われたのが土器製の巨大な甕棺です。
 会場にも大人がすっぽり入ってしまうほどのひときわ大きな甕棺が展示され、来館者の注目を集めていました。

 その甕棺の中でも注目したいのは写真の「頭部のない人骨」が入った弥生中期の甕棺です。この甕棺は発掘当初は損傷も少なくきれいな形で発見されました。調査のため現在の形のように甕の上部を切り取ったのですが、中の保存状態もよく、そして中には一体の頭部のない人骨が納められていました。甕棺は上甕と下甕を粘土を使って接合され、中は密閉された状態だったそうです。
子どもを甕棺に埋葬する風習はアジア地域にも見られるそうですが、これほど大きな甕棺に大人を埋葬する例は、ほぼ北部九州のみとのこと。これだけの大きな甕棺をつくるには当時の北部九州の人々が土器づくりの高度な技術を持っていたことがうかがえます。
ところでこの人骨、なぜ頭部がないのでしょうか?調査によるとこの人物は30代から40代の男性で、肩と腕の骨に切り傷と思われる深い傷跡が見つかったそうです。これにより、なんらかの戦いで死亡した犠牲者であるのではと考えられています。ちなみにこの埋葬されていた人物の身長は163cmぐらいで、縄文人の平均身長から比べるとかなり高いとのこと。おそらく大陸から渡来してきたいわゆる弥生人だと推測されるそうです。
この他にも内部をベンガラで塗られ、ガラス製の装飾品が入っていた甕棺なども間近で見ることができました。

▲弥生中期、後期、古墳時代の土器
 さて甕棺の他には、各時代の土器も紹介されていました。各時代順にみていくと微妙にその形が違います。弥生中期の土器は口が外側に向けて開いた形が多く、弥生後期になってくると口がすぼまったような形のものが多くなります。また古墳時代になると、シンプルで無駄の無いフォルムのものが登場します。

▲ベンガラで装飾された土器
 土器は普段のくらしの中でも使われていたようですが、青銅器などと同じように「マツリ」の道具としても活躍していたようです。
写真の弥生中期の土器は、表面をベンガラ(酸化鉄)で赤く装飾が施されています。近くでみると、うっすらと赤い色でぬった跡のような縞模様などを見ることができます。赤い色は血を意味し、邪気をはらうと考えられていたのではとのこと。ベンガラを塗られた人骨も発見されているそうです。これらの土器は甕棺墓のそばで見つかることが多く、死者を弔う際に用いられた儀式用の土器と考えられています。
▲供え物が入っていた広口壺
右は発掘された際のパネル写真。中に貝類が見えます
 またお供え物が入ったままの状態で発見された土器も展示されていました。写真の広口壺がそうですが、壺の中には「オオタニシ」・「シジミ」などの貝類が詰まっていました。この広口壺は祭壇跡から見つかったことから、お供えものとしてささげられていたものと推測されます。 

 この他にも奈良時代のもので、絵や文字が書かれた土器や大陸から輸入されたと思われる土器などが展示。やきものという素材が、古代からわたしたちの生活には馴染み深いものであったことをうかがい知ることができます。

 今回は土器を中心にご紹介しましたが、土器以外にも会場には木器や青銅器などの金属類、発掘調査に用いた道具や発掘スケッチなどが展示。吉野ヶ里遺跡の弥生時代の集落の変遷や、人々のくらし、そして生産活動や国内外との交流を知ることができる展示構成となっています。

吉野ヶ里遺跡では現在も発掘が行われ、その存在はすでに確認されている東墳丘墓からは何が発見されるか期待と注目がそそがれています。国の重要文化財をふくめて実物が多く展示されるこの貴重な機会にぜひ足をお運びください。 


●お知らせ 
学芸員さんによる展示解説が下記の日程でも開催されます。ぜひご参加ください。平成19年1月27日(土)14:00〜15:00 参加無料・予約は不要です

●佐賀県立美術館・博物館
【所在地】佐賀市城内1丁目15-23
【電 話】0952-24-3947
【駐車場】有
【休館日】月曜日(月曜日が休日の場合は火曜日休館)