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鍋島・古伊万里 掌(たなごころ)の逸品展
<会期:平成19年9月6日(木)〜平成19年12月16日(日)>
平成19年9月5日

 そろそろ重陽を迎えるというのに、残暑厳しい毎日が続いています。とはいえ、道端のススキもそろそろ白い穂が見えはじめてきている今日この頃です。今回は有田町にある今右衛門古陶磁美術館・秋季企画展「掌(たなごころ)の逸品展」におじゃましました。開催は9月6日からですが、5日に開催された記者発表にて一足早く展覧会を観覧してきました。
 今右衛門古陶磁美術館は、鍋島・古伊万里の優品や11代・12代・13代と歴代今右衛門の作品を公開している美術館。毎回、様々な角度で古陶磁を紹介する企画展を開催しています。今回の「掌の逸品展」はそのネーミングからして、古陶磁ファンの心をくすぐります。さてどんな展覧会だったか、レポートをどうぞ!

 記者発表では美術館の学芸員も務められている、陶芸家14代今泉今右衛門さんが展示解説を行われました。「昔から日本人は小さなものを美しいと感じる美意識が存在しており、日本人らしい感覚のひとつと言えます。清少納言の枕草子には『なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし』という言葉が残っているほどです。」と今右衛門さん。今回の展示では、片手におさまるほどの小さな「愛でる」古陶磁を一堂に展示。102件130点の小さな美がずらりと並びます。
 また普段は10代〜14代の作品を展示している常設コーナーも歴代今右衛門の小さな古陶磁を紹介。こちらも120点ほどの作品が並び、中にはあまりの小ささに虫眼鏡で鑑賞するコーナーも設けられているほどです。

▲白磁くちなし型香合
(写真は今右衛門古陶磁美術館提供)
 鍋島や古伊万里などの古陶磁蒐集に力を注がれていた、先代の人間国宝・故13代今泉今右衛門氏も小さな古陶磁がお好きだったそう。
 「13代は、かねてから『どのような古陶磁が好きか?』との問いに、『すっぽり納まる、掌の良い古陶器を撫で回したいな』と答えていたようです。」と14代今右衛門さん。
 まずは鍋島や古伊万里など古陶磁のコーナーをご紹介しましょう。ここには13代が実際に愛用していたという初期伊万里の盃、また小さな香炉や猪口、小皿などが並びます。
今回初公開となるのは、写真の「白磁くちなし型香合(古伊万里様式)」。17世紀前期のものと推測されます。径が6cm、高さが8cmほどで片手にのるコンパクトなサイズです。蓋の部分が花になっており、香合の足は枝を模しています。細かいところまで丁寧な細工が施してあり、なんとも愛らしい雰囲気です。香がなくても「くちなし」の香りが漂ってきそうなイメージです。
▲色絵人形文鎮
 そしてこちらも同じく古伊万里のものですが、ちょっとなまめかしい逸品。
「色絵人形文鎮(古伊万里様式)」19世紀中期のものです。上半身裸の女性が微笑みながら話かけている姿。これも片手にのるほどのサイズです。もしかしたら、当時人気のあった遊女を模したのか、それとも特注でだれかをモデルに作ったのか、ちょっと興味がわいてきます。

▲色絵竜胆文変形皿
(写真は今右衛門古陶磁美術館提供)
 小さいものというと、いかにも愛玩したくなるイメージがありますが、鍋島になると一転、その小ささの中にも非常に高い技術と品格のある作品が並びます。写真の「色絵竜胆文変形皿(鍋島様式・17世紀後期)」を御覧ください。横幅が11.8cmほど。小皿ですが、非常に細かく丹精な装飾が施されています。
 古九谷様式を思わせる濃厚な絵具による竜胆(りんどう)の花。そしてそのバックには小指の先よりも小さな花が陽刻で地紋として施されています。鍋島でも初期のものと考えられているそうですが、盛期鍋島の精緻な装飾を彷彿とさせる意匠です。

▲金魚の帯留め
 次に近現代の10代から14代今右衛門のコーナーを紹介しましょう。普段このコーナーは作家の代表作などが並んでおり、このような小物が展示されるのははじめてとのことです。とくに11代今右衛門の時代には小さな陶磁器を多くつくっていたということで、たくさんの作品が並びます。あまりの小ささに虫眼鏡で鑑賞するコーナーも設けられ、目を凝らしてひとつひとつを鑑賞します。
金魚や野菜、愛らしい猫など(写真参照)は、長さが3〜5cm程度のもの。こちらは着物着用の際に用いる帯留めだそうです。この頃に流行していたようで、今右衛門窯でも多く生産されていたのだそうです。
▲指先より小さい?!ひな人形の道具と思われる陶磁器
▲虫眼鏡でのぞいた様子です
 そして抜群に(!)小さいのが、雛人形用の道具としてつくられた皿や小鉢、花瓶など。こちらは虫眼鏡を使わないとよく見えないほどです。小指の先ほどの大きさに、普通サイズの陶磁器と遜色が無いような丁寧な文様が絵付けされているのに驚きます。このような小さいサイズを制作するための道具というのは特になく、普段と同じような大きさの筆で描いていたというからオドロキです。虫眼鏡で拡大された様子も撮影してきましたので、御覧ください。
 
 このほかにも古伊万里の水滴、鍋島の猪口、14代今右衛門さんの文鎮など生活の傍らにおいておきたくなるようなものが並んでいました。「小さいものですが、職人たちの神経と技がしっかりつめこまれています。」と今右衛門さん。虫眼鏡持参で、ひとつひとつじっくり鑑賞してみたくなる展覧会です。あなたも小さな美の世界へふれてみませんか?



●財団法人今右衛門古陶磁美術館
【所在地】西松浦郡有田町赤絵町2-1-11
【電 話】0955-42-5550
【駐車場】有
【休館日】月曜日(祝日の場合は翌日休館)