館蔵品による 近代陶芸展 −伝統と先鋭−
<会期>平成16年10月2日(土)〜12月23日(木)
 江戸時代までの陶磁器は、成形、絵付、焼成など専門の職人が分業で作業を行う生産体系がとられていました。職人の個性を主張するのではなく、長く続いてきた伝統的な技術と様式美を踏襲することで、完成度の高い作品を生み出したのです。
 しかし、明治時代を境に日本の陶芸は一変します。日本古来の伝統的な作風を西欧に示すとともに、進んだ製陶技術を次々と導入していきました。その契機となったのが、万国博覧会です。1873年(明治6年)ウィーン万博への日本の正式参加以後、明治政府の殖産興業、富国強兵政策の追い風をうけ、西欧の先進技術を登用するようになります。さらに工業学校や陶磁器試験場の設置と技術者の育成に力が注がれ、製陶技術が一般にも広く普及しました。江戸時代まで窯単位で作られてきた陶磁器は、技術者の増加により芸術性を追求した「美術的陶芸」と、大量生産を目的とした「産業的陶芸」へと分離していきます。
 しかし、1907年(明治40年)国内初の官展である文部省美術展覧会に工芸部門は含まれず、陶芸は不遇の地位に甘んじます。その後、明治末〜大正時代に活躍した板谷波山をはじめとする陶芸家らの尽力により、1927年(昭和2年)工芸美術部門が創設され、日本の陶芸活動に更なる弾みがつくようになります。それまでの「やきもの=工芸品」から脱却し、陶芸家個人が自己の感性のもとに、形式にとらわれない「芸術」として創作活動を目指すようになるのです。
 今展では「伝統と先鋭」をテーマとし、幻の色といわれる銅紅釉を用いた福田祐太郎の作品を主軸に、多彩な才能を陶芸の分野でも開花させた北大路魯山人、葆光彩磁(ほこうさいじ)に代表される板谷波山ら、土から彩色までの全工程を行うことで独創性あふれる「先鋭的」作品を展示いたします。それに対し、江戸時代に西欧を魅了した柿右衛門様式の乳白手(にごしで)を現代に復活させた酒井田柿右衛門、献上を目的として作られた日本唯一の藩窯をもつ鍋島家の家紋「抱杏葉(だきぎょうよう)」の使用を許された市川光春、最盛期の鍋島焼を忠実に再現した中村公法、「薄墨(うすずみ)」の技法を復活させた今泉今右衛門ら「伝統的」技術を現在に継承する作品を展示いたします。
 古くは縄文時代から脈々と作られてきたやきもの。近代陶芸家たちは、伝統的作風を踏襲しながらも自由な表現力と柔軟性をもって芸術にまで昇華させました。
 やきものの激動の時代を作り出した近代陶芸の息吹を、どうぞご覧ください。
(▲写真:【葆光彩磁 鳥兎魚文 水指】・板谷波山)
■主な展示作品
・「葆光彩磁 鳥兎魚文 水指」(高16.1cm)板谷波山
・「染付辰砂 葡萄文 壷」(高31.8cm)北大路魯山人
・「辰砂 虎座観音図 祭器」(高34.4cm)2代福田祐太郎
・「色絵 牡丹文 花瓶」(高32.3cm)13代酒井田柿右衛門
・「色絵 岩牡丹文 皿」(口径46.7cm)4代市川光春
・「色絵 青海波牡丹文 瓶子」(高30.3cm)中村公法
など110点を展示。

会場 戸栗美術館
住所 東京都渋谷区松濤1-11-3
電話 03-3465-0070
入館料 一般1,030円/高大生730円/小中生420円
(団体割引は20名様以上で200円割引)
※アートサークル(年会員)随時受付中 3,800円。お申込み当日より有効です。
交 通 「渋谷駅」より徒歩10分、京王井の頭線「神泉駅」より徒歩5分
休館日 月曜日(祝日の場合開館、翌日休館)
開館時間 9:30〜17:30(入館受付は17:00まで)
URL http://www.toguri-museum.or.jp/