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Vol.5 田中佐次郎さん 田中佐次郎氏
■田中佐次郎■Profile
1937年福岡県北九州に生まれる
1971年作陶を始める
1975年唐津半田に登り窯を築く
1980年加藤唐九郎より教を受く
1987年山瀬に登り窯を移築

 連日猛暑が続く夏のある日、汗を流しながら山瀬を目指した。しかし「こんなところに人が住んでいるだろうか」と思うような山深く人影がない狭い山道の道中、たどり着くことができるのか不安になった。やっと出会った畑仕事をしていた老夫婦に場所を尋ねると、すぐ近くまで来ていた。窯の入り口である石門を通ると、山の山頂近くに三方山々に囲まれた山あいに、三角州に似た開けた台地のような場所に工房があった。車を降りると、川のせせらぎと山の心地良いそよ風が山あいを渡っており、猛暑を忘れさせるような澄んだ空気が別世界へ導いているようだった。


―工房の入り口に「萬霊峯」(ばんれいほう)という言葉が掲げられていますが、どういった意味なのですか?

上品な絵唐津の鉢 萬は「たくさん」、霊は「御霊」まあ神といったところでしょうか、そして峯が山を表しています。「萬霊峯」は私が考えてつけたのですが、つまりここの山の中に神々が存在しているといったことなんですね。私は若い頃から禅に興味がありましたので、自然にも尊さを感じます。

しっとりとした伊羅保の花入れ―禅とやきものと何か結びつくものがあるのでしょうか。

 ええありますよ。「剣禅一体」という言葉があるのですが、剣は技術を、禅は精神を意味しています。そしてこれらを磨くことでその道で上達できるということなんです。また茶道も禅とは密接な関係にあります。お茶は心などとよくいいますが、言い換えれば「自分を整える」ということに繋がるのだと思います。やきものでいうと、まずはそのルーツをよく知ることに当たるのではと私は考えています。剣にしろ茶道にしろ、そしてやきものをつくるということも技術だけではなく精神も大事なのです。そこで禅へとつながっていく。

―なるほど、山深いところでそのようなお話を伺うと、なんだか自分が俗世間にまみれているようで…。

 ここは本当にいいところだと私も思います。山を控え、工房の両脇には川が流れているので自然と一体になっているようでしょう。

―でも冬場は大変そうですね。

 そうだね、冬でなくても霞がでたりしたら、ほんの1メートル先の庭先でも見通しが利かなくなりますよ。買い物なんかもちょっと不便だけど、ありがたいことに地元の人が採れた野菜や、手づくりのおかずなんかを持ってきて下さる。(丁度私たちがおじゃましていた時にもシジミのおすそ分けを持ってこられた)ああ、食べ物というと私は料理はダメなんだけど、食べることに関しては人一倍大好き(笑)。それでよく思うのだけど、舌と音楽と美術は感性が一緒なんですね。味がわかると美もわかるというか。美意識の点と線。つまりハーモニーによって構成されているからだと思います。料理にも器にも音楽にもハーモニーがあり、起承転結を見ることができるのです。

にこやかにお話をされる田中さん―何かご趣味はおありですか。

 若い頃はね写真も結構好きだったけど、大の映画好きでよく映画館にかよったもんですよ、今は全くだけど。25歳くらいまでかな、ほんとによく見ました。黒澤明の七人の侍なんかは、ビデオで何度も何度も見て、出演者の着物の丈とか履いている草履とか、とにかく細かいところまで見るのが好き。それに昔の映画の台詞は、今の日本人が忘れた「美しい日本語」が実に素晴らしいと思う。
工房の庭先 でも、映画にしろ物をつくりだすということはワクワクしますね。私はいつも自分が死んだ後のことを考えてつくっているんですよ。生きて死に様をつくるという無常感ですね。

―どうしてですか?

 作品は自分が死んでも残ります。すると自分が死んで何百年もたった後、見知らぬ人が私の作品を見る。私が古陶磁を見るのと同じようにね。過去、現在、未来は同体です。未だ見ぬ世を友として。

― 一日にどれくらいお仕事をされているのですか。

一日一禅!

 工房の両脇から川のせせらぎが聞こえ、裏には石や土を砕く為の水車小屋があり、時間が昔に戻ったような感じがした。田中さんの作陶におけるテーマは唐津焼の源流でもある朝鮮・井戸茶碗にあるとのことだった。何度か韓国へも足を運ばれているのだそうだ。

■関連リンク 唐津・田中佐次郎展
■関連リンク 田中佐次郎展


※このインタビューは2001年に行ったものです。
photo ■田中佐次郎氏・唐津 山瀬窯
東松浦郡浜玉町山瀬マリ石
JR西唐津駅から車で約20分
個展中心にて常設でないため、電話連絡してお越し下さい
電話0955-56-8280
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