| Vol.6 | 
                
                  |  | 灰色の月・万暦赤絵 (はいいろのつき・ばんれきあかえ)
 ■発行所
 新潮文庫
 ■著者
 志賀直哉(しがなおや)
 ■定価
 476円
 ■ジャンル
 私小説
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                  | 絶対的な自我肯定を行動の規範とし、その生の体験を書くことによって鮮烈に生き直した強靭な個性の作家志賀直哉。その生の歩みは、長く、美しく、豊かであった…。(カバー広告より)
 
 
 
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                  | 私(=志賀直哉)と『万暦赤絵』との奇妙な関わりを、無駄のない精密な筆致で書き記した随筆風の私小説です。 
 『万暦赤絵』とは、中国明代、万暦年間の景徳鎮の官窯で産した、華麗な赤絵が施された磁器のことを言い、とても高価な骨董品として紹介されます。昭和八年に発表されたこの小説の中では、金壱万円、八千円と表記があり、私は「とにかく高価すぎる。この価が一ト桁下であっても買う能力があるかどうかわからない」と驚嘆させられています。古陶展覧会の帰りに寄ったペットショップで見る「猫より小さな犬」が八十円で、それをさらに五十円にまけてもらって買うことと比べると、『万暦赤絵』がどれくらい高価なものであるかが想像できます。
 話は、『万暦赤絵』を見に行った帰りに買った犬の話に及び、『万暦赤絵』と『犬』との奇妙な関わりにつながります。
 
 途中、せっかく買った犬の面倒を家族の誰もがみなくなり、私は面倒臭さから首輪をとって表に放してやるのですが、私の処置を非難する娘に対し、私は平気な顔でこう言います。「とにかく片付いたので清々した」と。このあたりの家族とのやり取りに、小説としての面白さがある作品です。
 (万暦赤絵は短編集のひとつとして収録)
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