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やきものの技法VOL.8 象嵌 (ぞうがん)

 押印や彫りによって凹状の文様をつくり、そこに器体と色のちがう土を埋めこむこと。単なる押印文や彫文は古代の土器によくみられるが、象嵌による文様表現が最も美しい形で完成させられたのは、12世紀の高麗青磁が最初である。灰青色の地に白土や黒土が精緻な文様として埋めこまれている。こうした高麗青磁の技法は李朝陶器に引きつがれ、更に16世紀末から17世紀初頭ごろに、九州の陶器にもその技法が伝えられている。ヨーロッパにおいては中世には象嵌の技法が知られており、13世紀イギリスの「Chertseytiles」は早い方の一例である。

 象嵌はまず器体のまだやわらかいうちに押印をしたり文様を彫ったりして凹状の文様をつくる。次に色土を水にとかして泥漿にしたものを刷毛などで凹状の文様にそって盛りあげ気味に塗り、乾いてから余分な色土をかき落とすと、凹部に埋め込まれた色土が文様として現われる。象嵌による文様は筆描きよりも輪郭がはっきりしていることや、硬くしっかりした印象を受ける点に特色がある。押印の場合はくり返しの文様が簡単なので、その意味では手描きより能率的といえる。しかし象嵌の場合は土を埋め込むという手間がいるため、刷毛目文様のように化粧土だけを用いて象嵌のような効果を出す工夫もなされた。

 写真の徳利は、白く見える文様は全て象嵌の技法によっている。6段の圏線を回転しながら引き、その間に6種の印をそれぞれくり返し押印している。2羽の鶴も印刻によるもので、くちばしと足だけは鉄絵具で筆描きされている。
(鈴田由紀夫)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No13号より(昭和61年発行)

■写真…象嵌双鶴文瓶(三島手)
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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