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やきものの技法VOL.10 墨弾き(すみはじき)

 墨を用いて白抜きの文様を描く技法。通常磁器染付の藍地に白線の文様を施す場合に用いる。制作の工程は、素地に墨で文様を描き、その上から全面に呉須で着色すると、墨は膠(にかわ)質を含むため吸水性がなく呉須を弾く。これに施釉して本焼きすると、墨は高温で焼け抜け、墨で描いた文様が白い文様となる。墨によって呉須の藍色の着彩を防ぐため、墨の部分は結果的に白磁の白さを見せることとなる。なお施釉薬時に墨が釉薬まで弾いてしまう場合があり、施釉前に素焼きぐらいの温度で窯入れし、墨を焼き抜いておくと施釉が完全となる。鍋島藩窯の製品によく見られる墨弾きの技法は、上記のように墨を抜いたあとの施釉とされる。こうした高級品以外の大量生産品でも墨弾きの技法は用いられており、廉価品においては、施釉前の墨の焼き抜きを行うことなく施釉されたと考えられる。

 墨弾きの起源については、肥前磁器の場合は1650年代から1660年代に出現するが、それが中国磁器の影響によるものかどうかは、明らかではない。18世紀の清朝の染付磁器に墨弾きと思えるものがあるが、数は少なく、技法として多様され表現として完成度が高いのは肥前の磁器においてである。古窯跡出土陶片で初期の墨弾き資料としては、「大明成化年製」の文字を見込に表した天狗谷窯出土の皿等がある。こうした墨弾きの始まる以前は、白抜き文様を施す場合は白く塗り残すか、呉須で面塗り(濃(だ)み)したあと釘等で線彫りして呉須を掻き落とす技法が用いられた。

 写真の皿は放射文と紗綾形文は墨弾きによる白抜き文である。濃(だ)みの濃淡と白抜き文の組み合わせにより、藍一色で密度の高い表現がなされている。
(鈴田由紀夫)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No15号より(昭和62年発行)

■写真…染付菊唐草文皿
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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