トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol.9 「教養」(2003年)

 どこに、なぜ、そんなお金があるのかと思うほど、豪勢な家に住み、名の知れた高価な物を身の回りにそろえているらしいが、あまりいい趣味だとは思えない、ということがある。
「マダム」と呼ばれる中年の女性がテレビの取材に応じて、部屋を次々に回りながら、室内装飾や調度品、衣裳、食器などを紹介する番組があり、時どき観るが、めったに感心したことがない。生活感のなさやチグハグさが目につき、嘘が感じられ、豊かさとは程遠く、却って「貧」を感じることが多い。もちろん、負け惜しみもあるが、かなり本心でそう感じるのである。

なぜそう感じるかと考えてみると、多くの場合、「マダム」に確乎とした、その人なりの統一のとれた美意識が感じられないからで、いくらお金を持っていても、美意識はおいそれとは身についてはくれないのだから怖い。
生まれ、育ち、そして努力して身につけた教養が渾然(こんぜん)一体となって、その人の美意識を育てるのである。美意識を趣味と言い換えてもいい。

昨今、今は亡き白洲正子さんがもてはやされているが、それは彼女が長年かけて自分のものにした美意識が、経済力に支えられて、生活全般に一貫していたからで、だれでも白洲正子になれるわけではない。憧(あこが)れるのは結構だが、要は、あなたはあなたなり、私は私なりの、美意識を養えばいいのである。やきものにおいても然り。
以上のような私の考え方の正否を私は数年前、嬉野町在住の世界的な陶磁器デザイナー・森正洋さんとの対話で確認したのだった。「FUKUOKA STYLE」 vol.22特集「陶器いろいろ」で私のインタビューに答えて、森さんはきっぱり「教養度の問題です」とおっしゃった。また、

本当の意味の大人になるためには、もっといろんな情報を取り入れた上で、「あなたはそういうけれども、やっぱりこれはいいんじゃないか」「私の生活にはこれがいい」と自分なりのものの見方を身につけなければいけませんね。

とも語られている。
至言である。もちろん、やきものに限らず、物の選択全般にわたって言えることである。

photo ■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、
「必冊 池波正太郎」等
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