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■国立吉野ヶ里歴史公園 平成13年5月25日


 今回は展覧会ではありませんが、この春オープンした吉野ヶ里歴史公園へ行ってきました。やきものと何か関係があるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、吉野ヶ里遺跡からは様々な土器などが発掘されています。公園内は広大な敷地に弥生時代の集落の様子が復元されていますが、今回は土器や須恵器といったやきものを中心に見てきました。発掘調査をされている佐賀県文化課の細川さんに案内をしていただきました。

発掘作業の現場photo掘り出されたばかりの須恵器や陶器のかけらphoto まずはどういう状態で土器が見つかるのかを知りたくて、発掘現場をおじゃましました。訪れたのは午後2時過ぎ頃で一番日差しの強い中、30名程の作業者の方がもくもくと発掘されていました。「ちょうど先ほど掘り出したのがありますよ。」と細川さんから見せていただいたのは、古墳から奈良時代にかけての須恵器や陶器などのかけらです。まだ湿った土がついたままの状態で、博物館などで見るのとは少し違う生々しさが感じられました。
乳幼児用の甕棺次に半分が地中に埋まったままの甕を見せてもらいました。これは弥生時代中期ごろ、乳幼児用の甕棺として使用されていたものだそうです。甕棺の大きさは幅が約60cm程はあるのですが、素地がたいへん薄くできています。今まで色々な時代のやきものを見てきましたが、その中でも一番薄いくらいです。この薄さに最初は細川さんも驚いたそうで、陶芸作家の人にも色々尋ねたそうです。「作家の人に聞いてもこれだけの大きさがあるものを、この薄さで成形していくのはかなり難しいといわれましたね。この大きさですから、土を積み上げていくうちに下へ土がへたっていくんですよ。当時はろくろもありませんでしたから、丁寧に積み上げて作っていたんでしょうね。」
細川さんの話を聞きながら、目の前にある遺物と照りつける太陽の暑さで、遠い昔に迷いこんだようでした。

遺物に触れてみようコーナーで。叩き目跡のある須恵器 次に実際に土器を触ることができる施設があるとのことで足を運んでみました。ここは公園内にある展示室で、やきもの以外にも銅鐸などの出土品を見ることができます。この日は小学生の修学旅行も多く、子供たちに混じりながら「遺物にふれてみよう!」コーナーへ。実際に吉野ヶ里遺跡から発掘された弥生土器や須恵器などを触ることができました。須恵器などは「叩き技法」で作られているものがあり、青海波文様をした叩き目跡があるものもありました。
大小さまざまな甕棺このコーナーの横には甕棺墓コーナーがあり、大小さまざまな甕が展示され、先ほど発掘現場で見た乳幼児用の甕棺と同じものもありました。乳幼児用の甕棺展示してあった甕棺はほとんどが高さ1m程もある大きさで、これは成人の埋葬用に使用されていたそうです。子供を埋葬する甕棺は各地域、各時代であるそうですが、成人用の大型の甕棺は世界的にも珍しいそうです。甕のところどころに黒い部分がありますが、これは焼成時の炎の当たり具合によってできたものと考えられているそうです。小さい甕は寝かせて焼成されたので、大体横一線や縦一線と同じ方向にこの黒い部分が見られます。大きい甕は立たせて焼成するので、倒れないようにあてていた支え木のところが黒くなっているとのことで、ぽつぽつと同じ高さのところに数箇所黒い部分があります。

ベトナム陶器 「今年大変珍しいやきものが発掘されたんですよ。」と細川さんが案内してくれたところに展示されていたのは、直径約15cmの白い鉢がありました。これは14〜15世紀の鎌倉時代のものと思われる溝跡から見つかったものだそうです。大量の土師器皿や杯とともにこの白い鉢1点が出土したそうです。吉野ヶ里というと弥生時代というイメージが大きいのですが、鎌倉や室町、奈良といった色々な時代の遺構や出土品があるそうです。この白い鉢は形態的な特徴から14世紀頃のベトナムで焼かれた陶器であると判明したそうです。「ベトナム陶器が日本に流入してきた時代を考えることができる大変貴重な資料です。」と細川さんも力を入れて説明されます。器の表面にはぽつぽつと突起のような模様がありますが、これはへらでつくった模様だそうです。また器の見込み内にはベトナム陶器特有の、鉄釉がかかっています。全体的に柔らかさを感じる曲線で構成されており、表面の突起模様によってリズミカルな軽やかさを感じさせます。残念ながら今のところ、このひとつしか出土していないとのことですが、国内でも極めて珍しい事例だそうです。

 現代の陶磁器の祖先を発掘された状態で見ることができ、思わず私の足元にもあるのでは?とわくわくしてしまいました。当時の人々が求める用と美でつくられた器や甕たちを見ながら歴史のロマンを感じると同時に、毎日地道な発掘や研究活動をなさっている方々にエールを送りたい気分になりました。


■取材雑記
 今回は土器などを中心に見ましたが、公園内には物見櫓や祭殿などが当時の生活がわかるように集落が再現されています。とにかくこの公園は広く、外壕内の広さは約40haと福岡ドームが6個も入る大きさなのです。見学にいらっしゃる方は運動靴に帽子持参が必須です。

吉野ヶ里遺跡photo ●国立吉野ヶ里歴史公園
【所在地】神崎郡三田川町大字田手
【電 話】0952-55-9333(吉野ヶ里公園管理センター)
【駐車場】
【休館日】年末年始、1月の第3月曜日及びその翌日