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■佐賀新聞文化セミナー
「焼き物ア・ラ・カ・ル・ト」
平成13年7月5日

わかりやすく説明なさる江口さん。 みなさん、こんにちは!この時期、じめじめしてなんとなくすっきりしないお天気が続きます。今回の「行ってきました見てきました」はちょっと趣向を変えて、やきものの講座に出席してきました。場所は佐賀新聞文化センター。ここでは様々な分野のカルチャースクールが開かれており、「焼き物ア・ラ・カ・ル・ト」もその講座の一つです。三ヵ月コースとのことで今回はその第一回目の講義でした。講師は佐賀県重要無形文化財技術保持者の江口勝美さんです。
平日の昼間ということもあり、15人程の受講者は中高年の方がほとんどでした。皆さん作家である江口さんから講義を受けるとあって、楽しみにされているようでした。中には各地の窯場へ見学に行かれる程のやきもの好きの方もいらっしゃいました。

熱心な受講生の方々。 今回の講座テーマは「九州の古窯」。九州の古窯や古陶磁の年代を追いながら、歴史や技法、古陶磁鑑賞のポイントなどを勉強していくそうです。「本日は古唐津を勉強しましょう。」とのことでしたが、まず日本六古窯や九州の古窯の概略など当時の制作方法を教えていただきました。古陶磁で私たちが味があると思う「灰かぶり」という釉の変化がありますが、これは意図的に釉薬を掛けたのではなく、薪の灰などでできた天然釉による変化とのことだそうです。「今ではよく窯変(ようへん)といいますが、当時は偶然に出来た産物だったのです。鉄絵萩文壺photoその自然にできた物から感じられる力強さに、私たちは惹かれるのでしょう。」と江口さんも目を細めて話されます。「ところで古陶磁には『古萩』『古唐津』と名前がついていますが、例えば小石原や小鹿田は「古○○」とは言わないのを何故だかご存知ですか?」と江口さん。解説によると民陶として成り立っていたところでは「古○○」と言わないのだそうです。民陶の窯場でも唐津のように茶陶が栄えたところの物を「古○○」と呼ぶのだそうです。
江口さんの軽妙でユーモアを交えたお話に、受講生の方も古陶磁の世界にどんどん引き込まれているようでした。

古唐津の魅力を話される。 今日の課題である「古唐津」の説明は図録写真を見ながら進められました。古唐津には「岸岳系・東西松浦系・多久唐津系・武雄古唐津系」の4つの系統があるそうです。そしてこの4つの地区で栄えた大きな理由としては、原土があったからだそうです。ここで江口さんはお若い頃「ある日、初代松本佩山先生から『自分の土をつくれ。』といわれました。」というお話をされました。つまり、自分の周囲にある土を生かして作陶することで、土の魅力を引き出すことにつながるのだそうです。「今は遠いところの土も、扱いやすい土も簡単に手に入れることができます。古陶磁から伝わる『土味』は土の魅力を最大限に引き出しているところにあるのかもしれませんね。」と江口さん。唐津焼の歴史や系統、技法を聞くうちに、受講生の方からはどんどん質問が出て、時には脱線もありました。唐津三島茶碗photo説明に用いられた写真の作品を気にいったのか「先生が今、ご紹介された作品はどこで鑑賞できますか?」という声も。江口さんは「実物を見ることは大事ですよ。思い立ったが吉日、ぜひ足を運んで自分の目で確かめてください。」とアドバイスされていました。また「技法の名前を覚えておくと、鑑賞の目も広がります。例えば茶席でこれは花三島の茶碗です、と紹介されたとしましょう。花三島とは象嵌技法である三島手を用いて、花を何段にも装飾したものを言います。これを知っていると、茶碗を見るポイントも自然とわかりますよね。」と実際の生活に生かせるヒントも教えて下さいました。

メモも一生懸命 一時間半の講義でしたが、楽しいお話であっという間に時間が過ぎたようでした。歴史や技法のお話以外にも、日常でやきものを楽しむポイントや江口さんが若い時に勉強した内容など様々なお話を聞くことができました。 ちょっとびっくりしたのが古陶磁の贋作づくりについてでした。「昔の話ですが…」と江口さんはおっしゃっていましたが、古陶磁らしくみせるために、贋作を薬品で煮て「味のあるような」変化を出す仕事をしていた人がいたとか。「それでも、古陶磁の持つ力強さや訴えかけてくる感覚には負けるのです。いくら精巧でも訴えるものがないので、素人の人でも買った後に、おかしいなと思われるのです。私も知人が誤って購入した贋作を見せてもらいましたが、こちらの心に響くものがないのです。」というお話に受講生の方も神妙なおももちで聞かれていました。江口さんの言う「心に響くもの」に是非触れてみたいと感じました。

 講座の終わりに「ぜひ皆さんに実行してほしい」と言われたことがありました。それは「陶器は、作り手半分・使い手半分」という言葉でした。陶器は作り手が器を完成させた時点ではまだ未完成で、私たちが器を使い込み「器を育てる」ことで本当に完成するということでした。陶器は使い込むことで、色や光沢が変化し、自分だけの器になるそうです。「箱に入れっぱなしにしないで、どんどん使いなさい。何も高級なお茶やお酒を飲んだりする必要はなのですよ。日常の中で自分にあった使い方をすればいいのです。」との江口さんのお話に、受講生の方も「さっそく試してみよう!」と自分が持っている作品を思い出したり、隣の席の方に話されたりしていました。 次回は7月19日に有田の磁器についてとのことで、受講者の方も楽しい三ヶ月間を過ごせそうと、笑顔で帰っていかれました。

※江口勝美さんについてはこちら→
※初代松本佩山氏についてはこちら→
※唐津焼の技法についてはこちら→
※唐津焼窯元情報についてはこちら→


■取材雑記
 佐賀新聞文化セミナー「焼き物ア・ラ・カ・ル・ト」:第一、三木曜午後一時半から三時まで、佐賀新聞社教室にて。受講料は三ヶ月分で7200円(プリント料300円)。
問合せは佐賀新聞文化センター・電話0952-25-2151。