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■夏期特別企画
 板谷波山展―茶道具を中心に―

<会期:平成13年6月7日〜9月2日>
平成13年8月9日

photo ぎらぎらと太陽が照りつける夏休みの真っ只中、たまには「どこか遠くへ行きたい!」ということでJRを乗り継いで門司港近くの出光美術館(門司)へ出かけ、「板谷波山展―茶道具を中心に―」を見学してきました。板谷波山(1872〜1963)といえば、陶芸家として初の文化勲章を受章し、「近代陶芸界の最高峰」「近代陶芸の精華」などと称されており、現在も人々を魅了している陶芸作家の一人です。まずは出光美術館(門司)の館長代理でいらっしゃいます比翼さんに、波山の作品の見所をお伺いしました。

図案集のひとつ 「波山はやきものを制作するにあたって、陶工というよりも芸術家として確立することを目指していました。精神性の高い表現を目指し、様々な技法をも生み出していった作家です。波山独特の方法で表現されている世界を堪能していただきたいですね。」と、にこやかにお話される比翼さんも、波山の作品に魅了されていらっしゃるようです。波山は自分に厳しく、少しでも気に入らない作品は壊していたので、残っている作品は1000点程しかないそうです。そのうちの約4分の1が出光美術館に所蔵されているのだそうです。

 会場へ入ると波山が晩年になって取り組んだというお茶道具や図案集など、約60点ほどの作品が展示されていました。蒸し暑い日だったにもかかわらず波山ファンの方がたくさん訪れており、お目当ての作品を熱心に鑑賞したり、初めて見る作品に感嘆のため息をつかれたりしていました。天目あり、青磁、白磁、彩磁と一人の作家がつくったとは思えないようなバラエティ豊かな作品が並んでいます。葆光彩磁瑞花鳳凰文様花瓶なかでもひときわ目立つ作品「葆光彩磁瑞花鳳凰文様花瓶(大正12年)」に足がすい寄せられました。比翼さんによると「葆光彩磁(ほこうさいじ)」とは、釉薬をかける前に下絵付けを施し、その上から波山独特のマット釉ツヤ消し釉)をかけた技法なのだそうです。作品は細かい文様が丁寧に彫られ、微妙なグラデーションの絵付けが施されています。そしてマット釉によって、柔らかく淡い色彩に仕上がっています。こちらも葆光彩の作品まるで薄いベールがかけられているようで、神秘的な別世界に迷いこんだような気分になります。柔らかく淡い色彩はしーんと静まり返ったような空気を感じさせ、緻密な彫刻は躍動する命の営みのようなものを感じます。一見相反するような空間が同時に存在することで、神秘的で精神に訴えかけるような作品となっているのでしょうか。

天目茶碗「命ごい」 作品を見ていくと、「命ごい」というちょっと変わった銘の天目茶碗(昭和19年)がありました。ベージュから淡いブルー、濃いこげ茶へと微妙なグラデーションの色の変化がある茶碗です。この作品は、完成したこの茶碗を波山が気に入らず壊そうとしたところ、当時波山と親交があった出光佐三(出光興産の創始者)が「素晴らしい作品なのに」とゆずり受けたことから「命ごい」という銘がきているのだそうです。しかし波山は最後まで箱書きを拒んだことから、出光佐三がこの作品の経緯を箱に自ら記しているのだそうです。

蛋殻磁祥桃瑞芝彫文花瓶 「こちらの作品もちょっと変わった技法なんですよ。」と比翼さんに紹介してただいたのは「蛋殻磁祥桃瑞芝彫文花瓶(昭和26年)」という作品です。「蛋殻(たんかく)」とはタマゴの殻を意味するそうで、乳白色で貫入が細かく入る釉薬なのだそうです。そしてこの貫入は赤茶色に発色しているのが特徴です。この赤茶色は焼成後の冷却時に、朱を塗りこんで発色させたものだとか。この作品にも、しっとりとした白色の上に貫入がたくさん入っています。胴部には桃があっさりと彫られているので、細かい貫入があってもうるさくありません。むしろお互いをひきたてているように感じられます。

 この他にも会場には、波山のスケッチや文様案などを記した図案集や仕事風景の写真、絶作といわれている「椿文茶碗(昭和38年)」なども展示されており、絶作の椿文茶碗ファンには堪らない展示構成になっていました。見学されていたご夫婦は「テレビで板谷波山の作品を見て、とりこになりました。今日はわくわくして出かけてきましたが、実物を見るとやはり衝撃的な感動を受けますね。」と少し興奮気味に楽しく作品の感想などをお話していただきました。
波山の作品は、独特のオーラが漂う別世界を創りだし、そこに人々を優しく誘っているかのような雰囲気が最大の魅力なのだと私は感じました。避暑地への旅行もいいけれど、波山世界への旅を皆さんも体験なさってはいかがでしょうか。

■取材雑記
 見学をしていると「これはあの本に載っていた作品だね。」「こんな作品もあったんだ!」という声が聞こえてきました。「皆さん、相当のファンだな」と思いながら見ていると、初老のご婦人と目があって思わずお互いにっこりしてしまいました。
私ももう少し板谷波山を知りたいと思い、解説書を買って帰途につきました。でも作品が気になったり、感動すると図録などを買ってしまうので、どんどん本棚のスペースがなくなっていくこのごろです。

出光美術館 ●出光美術館(門司)
【所在地】北九州市門司区東港町2-3
【電 話】093-332-0251
【駐車場】
【休館日】月曜日(但し月曜日が祝日及び振替休日の場合は開館、翌火曜日休館)