
第1回伊万里・有田焼伝統工芸士展
<会期:平成14年8月3日〜9月1日> |
平成14年8月6日 |
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連日30度以上を記録する猛暑の中、「第1回伊万里・有田焼伝統工芸士展」へでかけてきました。佐賀の人々の生活ともかかわり深い伝統産業である伊万里・有田焼をPRしようと佐賀県立九州陶磁文化館にて開催。会場へ入ると、外の暑さを忘れさせるような、涼しげな有田焼や伊万里焼の磁器の作品がずらりと並んでいました。伊万里・有田焼伝統工芸士に認定されている方は、現在72名いらっしゃるそうですが、今回の展示には約40名ほどの方が出展。100点ほどの作品が並んでいました。ところでこの「伝統工芸士」とはどんな方のことをいうのか、ご存知ですか?これは経済産業大臣指定の伝統的工芸品やその用具・材料の製造に従事されている方を対象に、経済産業大臣認定資格制度「伝統工芸士認定試験」に合格された方へ与えられる称号です。非常に高度な技を求められる「伝統工芸士」という資格ですが、伊万里・有田焼ではろくろ・下絵付け・上絵付けなどの部門で製造はもちろんのこと、後継者育成にも活躍されています。
夏休み期間中ということもあり、会場は家族連れや遠方からの観光客の方がたくさん観覧されていました。まず皆さんが足を止められるのは、伊万里・有田焼伝統工芸士会長として尽力され、現在は顧問をなさっている中村清六さんの作品です。中村さんは白磁ろくろの第一人者として知られており、佐賀県重要無形文化財保持者にも指定されています。白磁という何も飾り気のない作品からは、その精緻できれのいい形がダイレクトに伝わり、思わず目を奪われます。
会場には伝統工芸士でこの道50年というベテラン、村島雪山さんもいらっしゃり、お話を伺うことができました。村島さんは白磁の茶器や香炉などを出展されていましたが、特に茶器などは「これが陶磁器?」と思うほど薄く繊細な仕上がりです。「ちょっと光にかざしてみましょう」と村島さんが茶器を、照明に当てると、器面に椿の花文様が浮かびあがります。これは透かし彫りの技法で施されているのですが、なんと0.5mmの彫りなのだとか。まず、器全体の厚さが1mmぐらいになるようにつくり、そこを0.5mmほど彫りこんで文様をつくるという、まさに職人技の世界です。お話を聞いていて、びっくりしたのは、この器をろくろで成形するのに、約1分程しか時間がかからないのだそうです。
「こういった人の手でつくる、繊細な作品をぜひ多くの方に知っていただきたいですね。」と村島さん。来館者の方にも丁寧に技法の説明をなさっており、皆さん興味津々といった様子でした。
成形のほか絵付け部門の作品も、その華やかさで会場を彩っていました。「上絵付け」部門で、伊万里で初めての女性伝統工芸士に認定された、市川翠子さんの作品は、緻密で上品な配色が魅力的な色鍋島の作品です。「尺寸高台鉢(宝珠松竹梅)」という作品は、器全面に桜の文様。そこに竹と松が大胆にあしらわれています。非常に緻密で細い線なのですが、力強さを感じ凛としたたたずまいを漂わせています。
同じく女性伝統工芸士の岩永千穂子さんの作品「金襴手龍地紋鳳凰図花瓶」は、金彩が施された華やかな作品です。色絵の部分は、全体的に落ち着きのある発色で、ゆったりとした器形にマッチし、たおやかな感じを受けます。絵をよく見ると、一本一本の線が髪の毛ほどの非常に細い繊細さ。観覧者の方もおもわず足を止め、「近くで見ても、離れて見ても作品の世界に引き込まれそう」と目を奪われていました。
華やかな色絵の作品が多数ある中で、少し変わった作風の物もありました。北村福次さんの「緑桐詰文鶴首尺二寸花瓶」です。赤、黄、青、金など色とりどりの中で、この作品は緑一色の色彩で文様が描かれています。爽やかさあふれる緑に、とてもリズミカルな配置で文様が描かれているので、生命感を感じさせる作品です。白磁の白と緑色の対比もおもしろく、バランスよく白が見えることで、一層緑色の爽やかさが引き立ちます。
このような高度な伝統技術は、伊万里・有田焼に限らず、取得に長い年月がかかり、また生活様式の変化で伝統工芸品の需要が低迷していることから、後継者の確保育成が難しくなっているのが現状なのだそうです。こういった課題を解決するためにも伝統工芸士による育成や、伝統工芸品の振興が期待されています。この素晴らしい技術と、そこから生み出される作品がぜひ今後も私達の生活を潤わせてくれるよう望みたいものです。
■取材雑記
夏休み期間中で、観光客の方が多く来館されていました。観光タクシーにて周遊されているグループも多く、館内を運転手さんとともに回られていました。運転手さんも手馴れたもので、「色絵、染付け、白磁」などの説明をしたり、伝統工芸士さん一人一人の特徴を紹介したりと、ガイドもプロ並み!
「こんなにたくさんの陶磁器を見るのは初めて」と観光客の方も、有田の魅力を満喫していらしゃるようでした。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日
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