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西コレクション展 寄贈記念
―佐賀藩武家伝来の鍋島・古伊万里―

<会期:平成14年9月18日〜9月29日>
平成14年9月18日

 昼間はまだまだ強い日差しが続くものの、さわやかな青空とそよ風が秋を感じさせる今日ころごろ。道行く田んぼのあぜ道に咲いている鮮やかな彼岸花を横目に、九州陶磁文化館で開催されている「西コレクション展」へでかけてきました。佐賀藩に仕えていた武家伝来の鍋島作品が展示されているということで、わくわくしながら会場となっている第一展示室へ足を運びました。展示室には鍋島を中心とした陶磁器作品が60件、計193点がずらりと並んでいます。展覧会初日ということで、これをお目当てに来館された方々が、楽しそうに鑑賞されていました。

 さてこの「西コレクション」とはいったいどういうものなのでしょうか。このコレクションを九州陶磁文化館へ寄贈されたのは西幾多さん。この数々の鍋島や古伊万里のコレクションは、西さんの祖父にあたる中野致明氏、つまり佐賀・鍋島藩重臣中野家に伝えられた由緒あるものです。中野家は、有田皿山の生産体制確立に尽力していたとのこと。有田皿山の初代代官として活躍した山本神右衛門重澄も、中野家一門の出身。実は「葉隠」の口述者として著名な山本常朝は、この重澄の子であったそうです。このように陶磁器と縁深い中野家に伝わる作品が、今回公開されることとなったのです。江戸後期の鍋島藩製品を中心に、17世紀末から幕末にかけての肥前磁器。また明治以降に収集されたという食器類や、中国陶磁器なども公開されています。

 今回展示されている作品の中には将軍家への献上品とみられるものもあります。安永3年(1774年)に将軍家より献上品の意匠注文を示した覚書が残っているそうですが、この中に記述がある作品と見られるものが展示されていました。そのひとつが「染付金魚文舟形皿(1790〜1820年代)」です。覚書には「船形皿 金魚絵船形皿 一」とあるのだとか。この作品は、横にゆったりと広がる器形で、見込みには楽しそうに泳ぐ金魚がデザインされています。この横長の器形が、広がりのある水の中をあらわすモチーフとぴったりマッチしています。器の裏には、牡丹文様が描かれ高台部分には、鍋島特有の櫛目文様が描かれています。
 上記と同じ覚書に記述があったことから、献上品であったと考えられるもうひとつの作品が「染付萩文皿(1790〜1820年代)」です。この作品は、直径15cmあるかないかという大きさの皿。萩が白い見込みの中を斜めに流れるような構図でデザインされ、とても優雅な雰囲気です。口縁部分をよくみると、規則正しい刻みが入っており、輪花皿として仕上げられています。こういった献上品は、おそらく製作時に失敗を考慮して多めに製作し、その余ったものを藩の上層部に配られたのではないかと考えられているそうです。中野家にもそうした作品が伝来していたのでは、ということです。

 今回小皿や小鉢などの作品も多く、鍋島の作品というと大皿などしか見る機会が少ないので、他の観覧者の方も思わず足をとめて見ていらっしゃいます。非常に精緻だけではなく、こころにくい卓越した意匠で知られる鍋島ですが、小さな作品にもそのエッセンスを見ることができます。写真の「染付蔦文小皿(1850〜1890年代)」の、表裏をよく見てください。染付で蔦模様が描かれていますが、見込み面に描かれた蔦は、実は裏面にも続くように描かれいます。小さな器の中に、蔦というモチーフを使って、独自の世界が存在しているかのようです。これらの鍋島作品のほか、古伊万里や明治以降に西洋を意識されてつくられた食器、中国製磁器なども展示されてありました。

 寄贈者である西幾多さんにもお話を伺うことができました。西さんがご実家にいらっしゃる時は、これらの器を日常的に使用なさっていたのだとか。「季節の植物を描いたものが多いでしょう。お正月にはおめでたい万年青などの作品を使って、お料理をいただいたりと、季節の風情を楽しんでいたものです。」と西さん。これらの作品を多くの方に見てもらい、また未来へ残して欲しいとの思いで、作品の生まれ故郷である佐賀の地へご寄贈なさったのだそうです。西さんは、展示された作品を前に「寄贈するときは、やはり慣れ親しんだ物だったので、正直さびしい気持ちもありました。ちょうど娘を嫁に出すような気持ちでした。でもこうして美しく展示していただき、多くの方に見ていただけて、たいへん嬉しく思っています。今日、この作品たちが、花嫁衣裳を着て披露宴にいるように思えます。」と顔をほころばせていらっしゃいました。
 鍋島藩御用窯でつくられた「鍋島」を、今までとはまた違った角度で鑑賞できるこの展覧会。作品の美しさだけではなく、それらを守り伝えてきた人々の心に触れたような気がした一日でした。
■取材雑記
 お話を伺った西さんの言葉で印象的だったのは「季節の風情」と「花嫁さん」。今の私たちの生活でも、季節感のある器や文様を使うことで、気軽に季節の風情を取り入れることができるのではないでしょうか。ばたばた過ごす毎日で、季節のうつろいに目を向けるのを忘れがちなのを、ちょっぴり反省しました。また「花嫁さん」という言葉に、自分の持ち物を大事にする、温かなまなざしを感じました。高価な物でなくても、こういった物への愛情を持つこと忘れていたな、とはっとさせられました。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日