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14代柿右衛門襲名20年の歩み展
<会期:平成15年4月29日〜6月1日>
平成15年5月7日

 100回目を迎えた有田陶器市が終わり、まだその熱が冷めやらぬ5月7日、陶器市期間中から開催されている「14代柿右衛門襲名20年の歩み展」へおじゃましてきました。有田の南川原(なんがわら)と呼ばれる通りにある柿右衛門窯は、美しい庭園に囲まれています。今回の展覧会は、同敷地内に併設されている柿右衛門古陶磁参考館にて開催。普段は、古陶磁を中心とした常設展を見ることができる施設ですが、今回、当主であり人間国宝でもある14代酒井田柿右衛門さんの襲名20年を記念して、この企画展が催されることになりました。同館でも企画展を催すのは初めてで、また14代柿右衛門さんの歩みがわかる作品が一堂に展観できる展覧会も珍しいことから、ファンの注目を集めています。

 参考館へ入ると、日本伝統工芸展出品作を中心に柿右衛門さんの襲名前の作品なども年代順に並んでいます。また古陶磁や大英博物館展に出品された作品の姉妹品なども含め、約25点ほどを展観することができます。柿右衛門さんは、昭和57年10月(当時48歳)に14代酒井田柿右衛門を襲名。それ以来、一人の作家としての活動はもちろん、柿右衛門窯の当主としてもご活躍されています。柿右衛門窯は江戸時代からおよそ380年続く伝統のある窯で、「濁手(にごしで)」・「色絵」の伝統的技術で知られており、柿右衛門製陶技術保存会としても重要無形文化財に指定されています。「濁手」とは柿右衛門独特の乳白色の素地のことで、「濁」とは佐賀の方言で「米のとぎ汁」のことをさします。「濁手」はゆすの木の樹皮を焼いた灰と、数種の陶石を混ぜ合わせた釉薬からできるもので、米のとぎ汁のようなやわらかい白色の素地に、余白を基調とした色絵が特徴となっています。

 展示作品の中には、柿右衛門さんが襲名前の作品もありますが、これは「濁手」ではないとのこと。「栗文花瓶」という色絵の作品ですが、「濁手」の作品と見比べると、その素地の「白色」の違いがよくわかります。柿右衛門さんは14代を襲名後、作品に「濁手」を用いるようになったそうです。続いて年代順に日本伝統工芸展出品作品を見ていくと、どれも器形をいかしながら、余白と色絵のバランスの美しさを追求した作品。どの作品も野や山でみかける素朴な草花をモチーフとされています。柿右衛門さんはこういった草花を、お好きとのことで、野山を歩いてはデッサンをなさるそう。そうしたデッサンの中から、植物文様として図案化していき作品に仕上げるのだそうです。

 数々の日本伝統工芸展出品作品が並ぶ中、ちょっと珍しい作品も展示されています。「色絵苺花地文花瓶(昭和61年)」という作品。これは14代柿右衛門さんと、ドイツ・マイセン製陶所の共同制作作品なのです。ヨーロッパでは1710年頃から磁器の生産がはじまりますが、当時盛んに柿右衛門様式の写しも行われていました。そのような歴史的な深いかかわりと、14代柿右衛門の襲名によって共同制作の機運が高まったことから実現したプランだったそう。柿右衛門さんによるデザインと指導のもと、マイセン製陶所において制作されたのだそうです。

 近年の作品の中では、2000年に限定制作された作品も並んでいました。「濁手桜花文壺」という作品で、「沈香壺」と呼ばれる形の蓋付きの壺です。これは2000年を迎えるにあたり、限定20個を制作された作品。枝や葉などは黒の輪郭線で、花は赤の輪郭線によって描かれています。それぞれの花は鮮やかな色絵が施されていますが、白い桜の花は塗り残されており、素地の柔らかな白地によって表現されています。また蓋の取っ手部分は「柿の実」の形になっていました。「濁手」の柔らかな白地に優雅な曲線の器形、華やかな色絵があいまって貴婦人のような佇まいを感じます。

 この他にも江戸時代にヨーロッパに輸出されていた古陶磁や古伊万里人形なども展示。まためったに見ることができない、「重要無形文化財保持者(人間国宝)」の認定書などもあり、充実した鑑賞を楽しめる構成となっています。陶器市期間中にも多くの方が展覧なさったそう。伝統継承と作家としての美の世界を切り開く14代柿右衛門さんの歩みを展観できるこの展覧会。会期は6月1日までですので、新緑に囲まれたこの参考館で、その世界にに触れられてみてはいかがでしょうか。
 

■取材雑記
 柿右衛門様式の代表ともいえる「濁手」はその難しい製法と天然原料の入手の困難から江戸後期には一時途絶えていたそうですが、12代・13代柿右衛門氏によって復元。ところが最近TV番組の特集で、この天然原料が手にはいりにくくなっていると報じているのを、思い出しました。自然破壊がすすんだり便利さを追求する世の中は、こんな伝統工芸の継承にも影響を及ぼしかねないのです。


●柿右衛門古陶磁参考館(開館は9:00〜17:00)
【所在地】 西松浦郡有田町西部丁352
【電 話】 0955-43-2267
【駐車場】 有
【休館日】 年末年始