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「白雨(はくう)コレクション展」
<会期:平成15年10月3日〜11月24日>
平成15年10月16日

 膨大な古伊万里資料で知られる「柴田夫妻コレクション」を所蔵している、佐賀県立九州陶磁文化館に新しい陶磁器コレクションが寄贈されました。その名も「白雨(はくう)コレクション」。この秋、その「白雨コレクション」の初披露展が、九州陶磁文化館にて開催中。コレクション総数444件925点の中から厳選された378件844点が一堂に並ぶ、見ごたえのある展覧会です。会期初日から、多くの陶磁器ファンが訪れ、バラエティ豊かな展示作品を楽しんでいます。
 まずは「白雨コレクション」とはどういうものなのかご紹介しましょう。「白雨コレクション」は、佐賀県諸富町出身の古美術愛好家・故蒲原信一郎氏(号を白雨)が、明治から平成にいたるまで、約80年もの年月をかけて収集された陶磁器の数々です。その内訳は、古伊万里や唐津、鍋島など肥前の陶磁器を中心に、日本各地のやきもの、さらには中国・朝鮮半島のものに加え、タイ・ベトナム・イラン・イラク地方の陶器(イギリスの磁器1点も含む)にも及びます。蒲原氏の古陶磁収集は少年時代の頃からはじまり、その鋭い鑑識眼をもって、大手建設会社のコレクション管理なども務められていたそうです。

 今回の展覧会では378件844点の作品を、肥前地区・九州地方・その他の日本各地・東洋と4つのコーナーに分けて展示。肥前地区の作品がやはり一番多く、鍋島藩窯・江戸初期の有田窯・江戸中期の有田窯・江戸後期の有田窯・唐津焼とさらに五分類されて紹介されていました。珍しい器形のものや小粋な意匠のものも多く、肥前陶磁の歴史を見ることができると同時に、その時代の流行や風俗なども垣間見ることができます。そういった作品をいくつかご紹介しましょう。
 江戸前期(1670〜1700年代)・有田地区でつくられたとみられる「色絵美人文陶枕」は、高さが15cmほどの方形のやきものです。「陶枕」とはその名の通り「まくら」のこと。ちょっと痛そうではありますが…。表面と裏面には、婦人像が描かれています。江戸で流行した「浮世絵」の美人画が、有田にも伝わっていたのだとわかります。
 同じく婦人像が描かれた作品に「染付桜樹婦人文筆筒か(1750〜1790年代)」という、背の高い筒型の碗がありました。一方から見ると、咲き乱れる桜の木の下でうとうととしている美人。反対方向からみると、ぴしゃりと閉められた障子が描かれています。障子を開けて覗いてみると…という少し色っぽい意匠です。ところでこの婦人が寄りかかっているのは、どうやら陶製ではなく木製の枕のように見えます。
 唐津焼のコーナーではたいへん珍しい器形の作品がありました。「鉄釉藁灰流し灯火具(1580〜1610年代)」という、胴に穴が開き、帽子のつばのようなものがついた器です。これは灯りをともすのに用いる道具で、つばのようなところで煤を受ける仕組みになっているのだそう。あまりこの器形は見受けられないそうですが、韓国に「甕器」という胴部に注口をあけた、この作品と似たような「燈盞台」があるそうです。

 
こちらでは鑑賞できる機会が少ない、日本の他の地域の作品も注目を集めていました。有田と同じく一大陶磁器生産地である瀬戸の作品に「灰釉三葉葵文手付鉢(1774年・瀬戸窯)」がありました。大胆に掛けられた緑釉のむらが趣深く、ちょっと歪みがある佇まいからは堂々たる貫禄すら感じます。
徳川家の家紋である三葉葵が施されていることから、御用品であったろうと推測できます。
またこの鉢の足には孔があるそうで、おそらく付属の台に取り付けて使う、手火鉢ではないかとのことです。この作品には、「安永甲午(1774)小平次景勝」の銘があり、系図から当時有力であった陶芸家ではなかろうかと考えられています。

 中国を中心としたアジア地区の作品も、陶器・磁器さらにはせっ器ありと、こちらもバラエティに富んだ展示になっています。とくに中国の作品には、技巧的で目をみはる装飾を施されたものが多く、思わず装飾の一部一部を、虫眼鏡で見たくなるようなものばかりです。その中でも、野菜や貝などを本物そっくりにつくった器が、人目をひいていました。遠目どころか、近くでみても陶磁器とはわからないようなものです。こういった器は中国・乾隆(1736〜95年)頃に作られはじめ、だまし絵と同じような趣旨で楽しまれたものだとか。粉彩(ふんさい)と呼ばれる技術が確立したことも、こういった品々をうみだす要因のひとつだったのではと言われています。粉彩とは、ぼかしを出したい部分に白いホウロウ質の釉薬を塗り、その上に釉薬で薄めた顔料で描き、ぼがしを出す技法。「色釉南瓜形土瓶(19世紀)」も、そうした器のひとつで、南瓜の形をいかした土瓶になっています。南瓜の表皮の凸凹感はそっくりそのままで、つたと葉をうまく配して注ぎ口としています。

 このほかにも、韓国7世紀中葉の骨壷や、トルコ・イスラム美術館に所蔵されている作品と類品のイスラム陶器もあり、初めてみるような作品と出会うことができました。故蒲原信一郎氏の鑑識眼と美意識のもと蒐集された作品を一堂に公開するこの展覧会は、11月24日までの開催となっています。一人の蒐集家が築いた古美術の世界をぜひ堪能されてみてはいかがでしょうか。



■お知らせ

学芸員さんによるこの展覧会の解説会が実施されます。平成15年10月25日(土) 14:00 〜 15:00となっています。九州陶磁文化館展示室にて開催。受講無料・参加自由です。
 

●佐賀県立九州陶磁文化館

【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12月28日〜1月1日


■関連リンク 筒井ガンコ堂のガンコスタイル・白雨コレクションを見て