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今岳窯 登り窯・窯焚き見学
<会期:平成15年1月16日>
平成15年1月16日

 1月16日は、晴れたり曇ったり、時折にわか雨が降ったりとはっきりしないお天気。そんな中、有田町内を散策している時に、「まーちゃんの陶芸体験日記」コーナーでお世話になった、陶芸教室の講師・溝上雅人さんから「今、登り窯を焚きよるよ!よかったら見においで!!」と電話がかかってきました。間近で、登り窯の焼成を見ることができると、わくわくしながら、溝上さんがいらしゃる伊万里方面へ車を走らせました。ということで、今回の「行ってきました見てきました」は、番外編として登り窯・窯焚き見学の様子をお伝えします。

 溝上雅人さんは、お兄さんで同じく陶芸教室の指導をなさっている溝上良博さん、お父様でいらっしゃる溝上藻風さんの三人で、伊万里市内の「今岳窯」で唐津焼の作陶をなさっています。今回の窯焚きは溝上藻風さんと、溝上雅人さんのお二人で作業をされていました。雨風をしのぐために、周囲を板で囲まれた敷地内で、登り窯が焚かれています。
登り窯はやきものの大事な製作工程「焼成」で使う、窯の様式のひとつ。大地の斜面にそって階段状に焼成室を数室並べ、一番下の部屋を胴木間(どうぎま)といい次の室から品物をいれ、薪を使って焼成。胴木間(どうぎま)は薪を焚く燃焼室で、その上の焼成室にも小さな口があるのでそこからも薪を入れます。各室が煙突の役割をもち、連続的に焼成できるので単室の窯と比べ熱効率が良く、たくさんの品物を一度に焼けることから量産にも向いています。日本では、16世紀末ごろから使用されはじめ、江戸時代になると全国的に普及していったそうです。

 今岳窯の登り窯は、全長約11メートルで部屋が4室あります。今回は約1000点程の作品が焼成されているそうです。天候などによっても違うそうですが、だいたい30時間をかけて焚かれるとのこと。私がおじゃましたのは、ちょうど焚き始めて24時間くらいの頃で、上から二番目の部屋に薪を入れていらっしゃるところでした。薪は赤松と雑木を使用するそうで、一回の焼成あたり1トントラック3台分ほどの量を使用するのだそうです。窯の側面にある窓口から薪を入れると、窯の上部にある穴(天井様というそうです)から勢いよく炎があがります。この穴は左右対称ふたつあり、まんべんなく炎がまわっていないと、両方の炎の強さが違ってくるのだとか。溝上さんは、穴から出てくる炎の強さを見ながら、薪がまんべんなくいきわたるように、窯内へ投げ込まれます。
薪を入れる窓口が閉じている時でも、かなり熱さを感じるのですが、口があくと一気に熱が伝わってきます。私はナイロンジャンパーを着ていたのですが、それが柔らかくなって融けそうになるほどです。寒い冬の一日とはいえ、溝上さんは滝のような汗。口が開いた時に窯の中を覗くと、まぶしいくらいの火に、ごうごうと炎が唸る音が聞こえ、何か神聖な雰囲気さえ感じます。途中、窯内の灰が均一になるようにと、口から金属棒を入れて窯内を混ぜる作業も行われました。お父様の溝上藻風さんが「おーい、そろそろ入れるか」と言うと、雅人さんが手際よく薪を入れたり炎の具合を確認され、ぴったりと息の合ったご様子。

 ところで、焼成には温度管理が必要となるのですが、登り窯ではどうやって温度を調べるのでしょうか?今岳窯では、2種類の方法と熟練の勘によって温度を調整していらっしゃいました。まず一つの方法は、窯の盛り上がった天井部分に、温度観測機をつかったものでした。そしてもう一つはゼーゲル錐(すい)という、高温測定計を使うのだそうです。このゼーゲル錐は長さが8cm程の白い塊で、珪酸・珪酸塩・アルミナなどの混合物で出来ています。これを窯の中に立てて入れておくと、一定の温度に達した時に、軟化して腰が曲がるのです。窯の側面に設けられた覗き窓近くにゼーゲル錐を置いて、時々覗いて確認するそうです。私も覗かせてもらいましたが、あまりの炎のまぶしさに、ゼーゲル錐が立っているのか、曲がっているのかも自分ひとりでは確認できませんでした。
また温度が950度に達した頃から、作品の表面がてかてかと光ってくるのだとか。「ちょうど、てかってきたようだから見てごらん」と溝上さんにすすめられて、窯の中を見るとぼんやりと見える花瓶らしき器の表面がちかちかと輝いているのが確認できました。
 また窯の天井から炎が出る口には、煤がたまってきます。煤がたまると不完全燃焼を起こしてしまうので、時々息を吹きかけて煤を取り除く作業も行っていらっしゃいました。溝上さんがふっと息を吹きかけると、ボッときれいで大きな炎があがるので、その迫力にもおっかなびっくり。

 今回は1時間半ほどの短い時間の見学でしたが、目の前で登り窯の迫力を体感でき、貴重な経験となりました。この後半日ほど焼成を続け、3日間ほどかけてゆっくり窯を冷ますのだそうです。この窯焚きでは、炎の激しさや不思議さになにか神がかり的なものすら感じてしまいました。窯の中を覗くと、炎が自分で風をおこしているのか、まるで龍が暴れているように見えます。土と炎をあやつることで、できあがる陶芸作品の原点を垣間見たような時間でした。

■窯出しの様子はこちら→


※まーちゃんの陶芸体験日記はこちら→
※登り窯についての詳しい情報はこちら→
※CG動画「バーチャル登り窯」はこちら→

■取材雑記
 佐賀には「八天神社」という、窯元さんたちに親しまれている火の神様が祀られた神社があります。今回の窯焚き見学では、まさに火と炎の世界に触れたことで、昔の人が「火を神様として祀った」ということに、納得させられるものがありました。
冬場にもかかわらずものすごい熱さで、夏場の作業の大変さがしのばれます。帰るころには、ほっぺたが真っ赤になっていました。

●今岳窯
【所在地】 伊万里市大坪甲1384-1
【電 話】 0955-23-3583
【交 通】 JR伊万里駅から車で10分
【駐車場】 有
【店休日】 元旦、8月15日