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田中佐次郎 作陶展
<会期:平成15年2月4日〜平成15年2月10日>
平成15年2月4日

 土肌の味わいと深く染み入るような釉薬による独自の唐津焼で、多くのファンを魅了する田中佐次郎さん。九州では2年振りとなる個展が、福岡三越ギャラリーにて開催されました。初日におじゃましましたが、午前中の早い時間にもかかわらず、ギャラリーは多くのファンで賑わっていました。会場には茶碗や水指などの茶道具を中心に酒器や小鉢など、約80点の作品がずらりと並び、お茶席も設けられていました。
田中さんは東松浦郡浜玉町の山深い山瀬という地にて、地元の土を使いながら作陶されています。今回展示されている作品は、ほとんどが窯出しされたばかりの新作とのこと。

 まず目に飛び込んできたのは、手の中にすっぽりと納まりそうなサイズの小ぶりの「唐津茶碗」。ふっくらと上に立ち上がった胴に、少しすぼませた口。真横から見ると、春を待つ季節にふっくらと膨らんだ梅のつぼみを思わせます。茶碗の表面は窯変(ようへん:焼成の時に、素地や釉薬の成分が化学変化をおこし、予測しない釉色や釉相が現れること。)による、様々な表情があります。正面は淡い雪がうっすらと積もったかのような白。反対面を見ると、オレンジ色の華やかな濃淡が生命感を感じさせ印象的です。中をのぞくと、ほっくりと赤らんだ濃いオレンジ色。
「ええそうなんですよ。これは『花蕾』をイメージしてつくったのです。今にもほころんで、かわいらしい花の一瞬を表現してみました。」と田中さん。田中さんのお好きな歌のひとつに「可愛い蕾よ、きれいな蕾よ、乙女心に似た花よ〜」という歌があるそうです。昭和10年代のこの歌を口づさみながら山瀬の窯でつくられたのだとか。
まだまだ外は寒い風が吹いていますが、この茶碗を手にとると優しく暖かな気持ちになり、何度も手にとっては眺めたり撫でたりと、「愛でる」心地に誘われます。

 同じく茶碗で足を止めたのが「絵唐津茶碗」。こちらは「花蕾」とはまた違った、しっとりとした大人の雰囲気を感じさせる暖かさが魅力的です。ゆるりと曲げられた口縁に、したたるように白い釉薬のしずくがかかっています。茶碗の見込みをのぞくと、さらりとした釉薬の下から赤い土色がうっすらと見えます。なめらかで上品な印象のこの釉薬は、砂糖菓子のよう。手にとると、器が手に吸い付くようなしっとりとした滑らかさ。会場のファンの方で、思わず何度も手に持つ男性もいらっしゃいました。
 直径が25cmほどの大ぶりの片口を「水指」に見立てた「斑唐津片口水指」という作品もありました。斑唐津とは、唐津焼の中でも最も古い岸岳系の窯で多く用いられた技法です。藁灰で作られた白色の斑釉(まだらぐすり)をかけたもので、別名を白唐津ともいいます。この片口もゆったりとしたボリューム感のある器形に、どろりと厚めにかかった藁灰釉の白が重厚感をより一層引き立たせていますが、片口という愛嬌のある風貌のせいでしょうか、人懐こい雰囲気さえ感じます。

 地元・山瀬の土を中心に作陶されている田中さんですが、会場に1点だけ少し違う土味の作品がありました。「敦煌唐津花生」と名付けられた、高さが30cmぐらいの耳付花生です。敦煌という言葉から想像されるとおり、器の表面はざらりと乾いた砂目のような荒い肌をしています。花生の上部と下部はどこまでも続く深い砂漠のような、または昼と夜の境目を思わせるような色の変化があります。「これは敦煌にある鳴沙山と呼ばれる砂漠の土と、山瀬の土を混ぜてつくったものです。鳴沙山とは風の音などが砂漠に倒れた多くの人の無念や悲しみのように聞こえることからついた名前だそうです。現地にはそのような話を言い伝える漢詩も残っているそうです。たまたま知り合いからこの砂を頂き、作品にいかせないものか…。」と田中さん。のびのびと自由に象られたような形が、風で刻々と変化する砂の姿を演出しているようで、次に振り返って見たときには違う形状になっているのでは、と思ってしまいます。

 この他にも、唐津焼ファンにはたまらない朝鮮唐津の徳利や斑唐津の平盃やぐい呑み。絵唐津の向付などの食器も展示されていました。田中さんの手にかかることで、多様に変化する土や釉薬。唐津焼を見る楽しさの原点のようなものに触れた気がします。高い品格の中にも人なつこさを兼ね備えた田中さんの作品に囲まれていると、「器を愛でる」という気持ちがちょっぴりわかってくるような一日でした。

※「あの人に会いたい 田中佐次郎さん」編はこちら→
※「平成13年 行ってきました見きました 田中佐次郎個展」編はこちら→

※ご注意:個展にても作品を触れるのを禁じている場合もあります。手にとる際には必ず係りの方、作家さんに了承を得てからにしましょう。



■お知らせ
平成15年3月28日〜4月2日、東京「しぶや黒田陶苑」(東京都渋谷1-16-14メトロプラザ1F)にて、田中佐次郎さんの個展「田中佐次郎 山瀬七色展」が開催予定です。最近取り組んでいらっしゃる満天の星を思わせる昂をイメージした山瀬斑唐津などの作品が展示予定。お近くの方はぜひお出かけください。

●福岡三越 9階美術画廊

【所在地】福岡市中央区天神2-1-1
【電 話】092-724-3111(大代表)
【駐車場】有
【営業時間】10:00〜20:00