イメージ
イメージ

番外編:うまか陶読者ドイツレポート
平成16年10月1日

 やきものの町有田は、同じくやきものを通じてドイツとは深い関係があります。有田そしてドイツのやきものの町マイセンは、姉妹都市提携も結んでいます。その昔、ヨーロッパの富裕層は古伊万里を装飾品として珍重していました。ドイツ東部に位置するマイセンでは、16世紀に古伊万里蒐集に熱心だった帝国ザクセン侯国のアウグスト強王により、この地でヨーロッパ初の磁器製作が行われました。マイセンの陶磁器は「やきものの宝石」と呼ばれ、現在も人気を博しています。今年は有田・マイセン姉妹都市提携25周年を迎え、今秋これを記念してドイツにおいて有田陶芸展が開催され、またお互いの住民の皆さんによる交流会など多彩なイベントも催されています。
 今回の「行ってきました見てきました」は番外編と題し、ドイツ在住のうまか陶読者の方によるドイツレポートを掲載させていただきます。ドイツの街並みややきものについて、写真ともにレポートをお送りいただきました。

―カルチャーショック・色と水―

 日本からこちらに来てすぐの感覚や状況を、カルチャー・ショックと表現したらよいのでしょうか?「お〜、日本と違うなあ!」と思ったあと、どうして、違うのかなあ、どこが違うのかなあ、と考えていました。そのひとつ、色彩の見え方が、私には日本とドイツで大きく違う、何種類かの色があります。緯度だけの違いなのか、植生など、自然環境の色調の違いだけなのか、周囲の色がそんなに日本と違うのかな、と疑問に思っています。
 日本から持ってきた、深緑・赤色が入った洋服の色が冴えません。赤系はどんな色の赤でも、日本から持ってきたものが、全部、今イチに見えます。鮮やかさ、が無いです。オリーブ色や抹茶色など、比較的気に入っていた色の生地が、すっかり焦げ茶掛かって見えます。うぐいす餅にかける、黄色緑系の色のもの、マスカット・カラー系が綺麗に見えます。
 日本の染付模様に使われている図柄の、座布団カバーが、日本で使っていた時のように、心地よく綺麗な配色に見えなくなってしまいました。染付の濃紺の唐草と、鉄赤をイメージした茶赤のラインと、白色が少し、の3色の生地です。濃紺の濃さが中途半端なのかな、と最初思いましたが、どうもこの鉄赤の色が中途半端に赤い茶色に見えるのが原因のよう気がします。
「これが、鮮やかな赤だったら、しっくりするのに!」と日本に居たときは少しも考えなかったことを考えます。日本では、このままの配色で十分満足していました。逆に、「海外から日本に持ってきたら、なんだか違った色に見える」という体験をされた方もいらっしゃることでしょう。「日本の焼き物、ドイツで見ると、日本で見ているのと、相当、違っているのかもしれない!」ですね。
 こちらに住み始めて、何が難関だったかというと「水の扱い」がさっぱり分からなかったことです。
「水」に関することは、カルチャーショックというか、あまりに日本と異なり現地の人との行き違いを生じやすいもののようです。水への関心の違いがもとで住居のオーナーと口論になったり、洗濯機などの機器を破損させてしまったりすることがあるようです。欧州、特にアルプスを境にして、北側は、カルシウムイオンを多く含む=水が硬い「硬水」の特徴がとくに強く出ています。南側はさほどでもないと聞いています。

何に泣いたといえば、「水」!もう、ホント、私はこれには参りました。
1)ドイツでは食器洗い機の無い生活は考えられません。
2)ドイツの食器洗い機には、和食器を並べると少ししか入りません。
よって使うときには「入る形」の食器を優先して選ばざるを得ません。
3)普通の手洗いを続けていると、食器もガラスも少しずつカルシウムが積もり、惨めな状態になります。
4)日本から持ってきた食器のほとんど(陶磁器・陶器)は、大変、カルシウムが付着しやすいです。
5)ドイツでのお茶席では、食器は全部、食器洗い機で洗わなくっちゃ!?

 萩のお茶碗も、そのまま、何度も使って放っておくと白〜くガサガサになっちゃう訳です。陶器の表面の小さな穴や貫入、ここから始まったカルシウムの堆積は、少し積もれば、また積もる、、、を繰り返して、あっという間にくぐもった白っぽい感じになります。手で触ると、カルシウム分のザラザラがすぐ分かります。で、、、やむをえず、食器洗い機に、、、ドイツの食器洗い機は日本のと異なります。私も、日本で食器洗い機を使っていなかったので、比較があやふやですが、少なくとも、洗いに使用する水をどう処理するかが違います。早い話、炭酸カルシウムなぞを分解して洗っていただかなくては困るので、食器洗い機が必要なのです。


―マイセンとドレスデン―

 次にマイセン磁器製作所と、ドレスデンのツヴィンガー宮殿をご紹介します。マイセン磁器製作所は、マイセンのインフォメーションでもらってきた日本語パンフによると、州立となっています。入場料4.5ユーロ、デモンストレーション室入場料3ユーロ、写真も撮影可能でした。↑
 場所をドレスデンのツヴィンガー宮殿へ移して。マイセンとドレスデンは、有田と波佐見って感じでしょうか。お互い窯業地ですが、なんとなく「別なのよ」って雰囲気です。でも、最初、ドレスデンで窯業実験をして、最終的に工房をマイセンに移しているので、この周辺の歴史を記述するには、どちらも必要でしょう。
 ドレスデンとマイセンは、本当に近距離です。ドレスデンの方が「街」です。日本人の団体観光客は、通常ドレスデンに泊まり、専用バスでマイセン工房に直行というルートを主にとっているようです。
 ツヴィンガーの陶磁器コレクションの中に、古伊万里など中国磁器と初期マイセンがごっそりあります。ドレスデンのツヴィンガー宮殿内は、撮影料5ユーロを払えば自由に撮影させてもらえます。
ドイツでは、写真の撮影許可には、3つのスタイルがあります。

1)写真撮影一切お断り
2)許可を得れば写真撮影可(撮影料の支払いなし)
3)許可を得て、指定の撮影料を支払えば写真撮影可

です。あと、撮影時のフラッシュの使用に制限がある場合もあります。私がお送りする画像は、もちろん、2か3のいずれかの条件で得たものです。カメラを向ける前に、受付や、施設の人にきちんとに撮影の希望を伝えて、確認しておくと良いですね。場所によっては、許可を得れば展示物の写真撮影も可能です。これは、日本の美術館などではあまり見られないシステムです。
 しかし、実際に、美術館などでガラスケースの中の展示物にカメラを向けると、
大抵、フラッシュが反射して上手く撮れなかったり、逆に暗すぎてはっきり撮れなかったりと、とてもお見せできるような画像にはなりません。それでも、素敵な焼き物には、ついついカメラを向け、自分の好きな焼き物アルバムに納めます。

―ヘッセン・パークで出会うやきもの―

「ドイツの焼き物を見たい!?あなた、ヘッセン・パークに未だ行っていないの??」・「そうよ、あそこに行けば、一目瞭然ヨ!」周囲から促され、出かけたのはフランクフルトの中心から見ると北方郊外にあるヘッセン州のヘッセン・パーク。
 ヘッセン・パークはドイツ中の、ここ100年ほどの伝統建築物を、集めた公園で、文字通り、麦畑の黄金色の海の中に各種の建築物が再建されています。パン屋、農家、宿屋、鍛冶屋、、、と続いた中の一軒が陶器工場。
その1軒が「陶器を生産していた」工場(家内工業)の作業場を再現し、もう1軒が、ドイツの「陶器」を一目瞭然に分類した簡単な資料館となっています。

1850年〜1950年くらいのドイツでの
○「家内工業」としてのドイツの陶器の歴史が分かる
○「庶民」が必要としていた日常陶器の形と種類が分かる
○「イッチン掛けで絵柄を彩色した陶器」の産地と、「備前焼のような焼き締め陶器」の産地の2分類し、ドイツ全土と周辺国のどこにどちらが分布していたか、一目瞭然になるように展示している。

 ひどく簡単な作りの小さな資料館なのですが、ドイツに来て焼き物を見始めて、初めてホッとしました。壷あり、土鍋ありの庶民品を鑑賞するには良い場所です。
というのも、ドイツの一般的な博物館・資料館では、紀元前のものから中世の出土品、輸入品、現代品に至るまで、これでもかと一斉に並べられて、素人目には、その違いがさっぱり分かりません。
紀元2、3世紀のローマ軍が北方に遠征してきたとき、軍隊が自給自足で作った赤い焼き物も、16世紀後半の白磁の前の常滑焼のような焼き物も、どちらも全く同じような趣に見えてしまうのです。
今の土産物屋に並んでいる陶器は、ああ、ここからのモチーフだったのか、と白いマーガレット花柄の古い器を見て、初めて納得しました。

今回は番外編と題し、うまか陶読者の方よりいただいたドイツレポート及びお写真を掲載させていただきました。ありがとうございました!