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テーマ展 韓国の伝統工芸U ―土が織りなす器の美―
<会期:平成17年2月4日〜3月21日>
平成17年3月2日

 まだまだコートが手放せない気温ですが、梅の花や菜の花を道端で見かけ、春の息吹を感じるような今日この頃。今回は朝鮮半島の陶磁器を鑑賞できるというテーマ展「韓国の伝統工芸U ―土が織りなす器の美―」展へ出かけてきました。場所は唐津市鎮西町にある佐賀県立名護屋城博物館です。名護屋城博物館は、文禄・慶長の役の折に豊臣秀吉が築城した名護屋城跡の中核施設です。城跡と海が見渡せる博物館で、日本列島と朝鮮半島との交流の歴史を中心とした調査・研究・展示を行っています。
 今回の韓国の伝統工芸を紹介するテーマ展は、今年で2回目(前回は螺鈿家具などを紹介)。名護屋城博物館の所蔵品を中心に朝鮮半島の陶磁器の歴史や技法を紹介し、唐津焼とも深いかかわりがあることにポイントをおいた構成となっています。ほとんどの作品が初公開とのことで、佐賀県内でも朝鮮半島の陶磁器を一堂に見ることができるのは珍しいことです。
会場には約70点ほどの作品が、時代順・種類別に展示。また参考資料として古唐津、現代の韓国の生活陶器なども並びます。この展覧会を担当された学芸員の安永さんのお話をうかがいながら、鑑賞しました。

 まずは紀元前からつくられてきた「土器」のコーナーをご紹介しましょう。朝鮮半島の土器の生産は約8000年前からはじまったそうです。紀元前10世紀頃になると、より薄い土器がつくられるようになり、これは縄文土器晩期から弥生時代にかけての日本の土器にも影響を与えています。展示品の中で目を引いたのは「鳥形土器(3〜4世紀)」。薄手の土器ですが、鳥の形を優雅な曲線で表現している、高貴な雰囲気が漂う作品です。
これは、死者とともにお墓に埋葬する副葬品で、その昔鳥が死者を導いてくれるということから用いられたのだそう。
 三国時代(4〜7世紀)になると、朝鮮半島では陶質陶器というものがつくられるようになります。これは還元炎焼成によって高温で焼きしめられたもので、登り窯で焼成されていました。大きな壺から細部まで手のこんだ装飾品も展示されていましたが、遠目で見ると金属かと思うような質感です。「実際に叩いてみても、キーンと硬質な音がしますよ。硬く焼き締まっているんですね。」と安永さん。陶質土器は各地で生産され、その高い技術がのちの「高麗青磁」の誕生のもとになってきます。

 9〜10世紀になると、陶質土器の技術、そして中国越州窯から伝わった技術によって「高麗青磁」の生産がはじまります。朝鮮半島の陶磁器と聞くと、この「高麗青磁」をイメージする人も多いのではないでしょうか。その当時でも高麗青磁は、非常に珍重され、国内外でもその技術や美しさは高く評価されていたのだそうです。高麗青磁の大きな特徴としては、翡翠のような淡いエメラルドグリーン、細かく施された象嵌技法の2点があります。展示品の「青磁象嵌茘枝(れいし)文鉢(12世紀頃)」もそうした特徴をよくあらわした作品。淡く透明感を感じさせる色合いに、茘枝(くだものの一種)の文様を細かく丁寧に施されています。非常に薄手に仕上がっており、実際に手にもつと見た目よりもさらに軽いのだそうです。高麗青磁の生産は12世紀頃にピークをむかえますが、13世紀に入るとモンゴルからの侵略、さらに14世紀には倭寇による沿岸部の荒廃でその技術が衰退していきます。沿岸部には窯が多くあったことから、陶工たちが内陸へ避難せざるを得ない状況だったのです。

 「ところが、その衰退した技術をなんとかカバーして焼物をつくろうと、粉青沙器(ふんせいさき)という器が登場します。」と安永さんのお話を聞きながら、次のコーナー「粉青沙器」へ足を進めます。「粉青沙器」とは、白土を用いた灰青色の沙器という意味。まず成形した器に、白土を施し、その上に文様などを装飾し、施釉して仕上げたもの。高麗青磁の影響を受け、高級品には細かい象嵌文様が施されていますが、大量にでまわるようになると庶民の間にも広まります。



 そうすると簡素化された彫り文様や、ダイナミックな絵柄のものも登場し、とくに当時は牡丹などの花文様が好まれていたのだそう。高麗青磁とはまた違う、ざっくりとしたおおらかな雰囲気にひかれます。ところがこの「粉青沙器」も16世紀頃には消滅してしまいます。
 15世紀後半になると官窯では白磁を中心に生産されるようになりますが、この朝鮮時代には儒教の教えが広まり質素倹約の風潮のもと、白磁が好まれるようになったという背景があるのだそうです。

 時代を追いながら、朝鮮半島の陶磁器を見ていきましたが、これに加え、出土品に見る陶磁片や、朝鮮から日本に連れてこられた陶工のことを記した古文書、江戸時代の古唐津の作品、現代の朝鮮半島で使用されている生活陶器も展示されています。朝鮮半島から連れてこられた陶工によって唐津焼が発展してきたのは知られていますが、このように一堂に展示されると、歴史的背景を詳しく知らなくてもそのたたずまいに何かしら共通するものがあると感じることができます。「唐津焼の技法には、鉄絵、象嵌、印花といったものがありますが、今まで見てきた朝鮮半島の技術の影響を色濃く受けているのを感じていただけると思います。」と安永さん。
 時代情勢の影響を受けながらも多様に変化し、常に新しいものを生み出してきた朝鮮半島の陶磁器を見てきましたが、実は私たちの肥前地区でつくられている焼物のルーツを垣間見ていたようです。今回のテーマ展終了ののちは、これらの作品にはまたしばらく会えないそう。ぜひこの機会に、ルーツを追う鑑賞に出かけてみられてはいかがでしょうか。


■お知らせ
名護屋城博物館では下記の日程にて「なごや歴史講座」が開催予定です。
開催日:平成17年3月20日13:30〜15:00 
会場:佐賀県立名護屋城博物館ホール
テーマ:佐賀県の文化財


●佐賀県立名護屋城博物館
【所在地】 唐津市鎮西町大字名護屋1931-3
【電 話】 0955-82-4905
【駐車場】 有
【休館日】 月曜日(祝祭日の場合は翌日)、年末年始