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白雨コレクション―蒲原信一郎の眼―
<会期:平成19年3月2日〜平成19年4月8日>
平成19年3月3日

 桃の節句の3月3日。こちら佐賀県は青空で初夏の陽気を思わせる高い気温となり、一日じゅう良いお天気に恵まれました。私はこの日、佐賀県立美術館で開催が始まった展覧会「白雨コレクション―蒲原信一郎の眼―」を鑑賞してきました。

 「白雨(はくう)コレクション」とは、佐賀県諸富町出身の古美術コレクター・故蒲原信一郎氏(号を白雨)が、明治から平成にいたるまで、約80年もの年月をかけて蒐集された陶磁器や染織作品・古文書など美術工芸品の数々です。平成14年度に陶磁資料が佐賀県立九州陶磁文化館へ、平成15年度には美術・工芸・歴史資料が佐賀県立博物館に寄贈。今回はそれらのコレクションの中から陶磁を中心に美術・工芸・歴史資料の80件あまりを紹介するものです。
 陶磁コレクションの内訳は、古伊万里や唐津、鍋島など肥前の陶磁器を中心に、日本各地のやきもの、さらには中国・朝鮮半島のものに加え、タイ・ベトナム・イラン・イラク地方の陶器(イギリスの磁器1点も含む)にも及びます。蒲原氏は、その鑑識眼をかわれて、大手建設会社のコレクション管理なども務められていたそうです。
 明治38年生まれの蒲原氏。氏の古美術蒐集のはじまりは、少年時代にさかのぼります。14〜15歳のころ地元の道具屋さんにおいてあった「柿右衛門陶枕」が目にとまり、売り物ではないという主人に懇願して10数円で購入。
これが氏の蒐集のはじまりで、これ以降、平成13年96歳で死去されるまで古美術の多様なコレクションを作り上げるのです。蒲原氏が最初に手にいれたこの「柿右衛門陶枕」はその後、京都国立博物館に寄託されたそうですが、残念ながら今回この作品の展示はパネル写真のみでした。

 会場には肥前の古陶磁を中心に、着物や古文書などバラエティに富んだ古美術が並びます。また作品展示と同時に、蒲原氏が作品に寄せたコメント(コメントは「白雨コレクション 蒲原信一郎のみずみずしさ(佐賀新聞社出版)」より抜粋)もパネル紹介され、一コレクターの美の世界を垣間見ることができます。展示作品の中から古陶磁をいくつか紹介しましょう。

▲青磁色絵龍虎文大皿
 「青磁色絵龍虎文大皿(肥前有田窯・1700〜1730年代)」は、青磁の皿の見込みに赤い絵具を中心に絵付けが施された華やかな大皿。この作品に寄せられた蒲原氏のコメントは次のようなものです。
「雀を手で隠してみんさい。ひと味、足りんじゃろう。真ん中に雀がパッと飛び立って、それが周りの龍や虎、すべての絵を活かしとったいのう。雀に大活眼があるのう。これが絵心たい、歌心たい。」
 確かに見込み中心に描かれた小さな雀がアクセントになっていますし、これがあることで画面全体の緊張感もうまれているようです。
▲色絵牡丹魚貝藻文皿
 同じく肥前・有田窯の「色絵牡丹魚貝藻文皿(1710〜1740年代)」には「さあ、どうだ、おいが腕ばみてみろと言わんばかりの筆遣いでしょう。職人の心意気も息遣いも伝わってくるでしょう。」というコメントを寄せています。
蒲原氏の古美術品に対する眼は、その作品の美しさや希少価値はもとより、いかに作り手の創造力や心意気が伝わってくるかに興味を持たれていたのかが分かります。これが蒲原氏のコレクションを作り上げるひとつの基準だったのではないかと思います。

▲染付草花文壺
 作り手を愛していた蒲原氏らしく、作品から感じるおもしろみも素直にコメントされているのも好感が持てます。中国・ショウ州窯の明代期の染付「染付草花文壺」。
これには「グワッシュで描く筆さばきのごとしとろうが。(中略)グワッシュになると、画家は心持の楽になるとじゃなかろうか。ピカソでん誰でんが、水彩不透明の絵具を使うときは、もう大胆かもん。」とのコメントを寄せられています。
思いきり描いた染付の文様から、作り手の楽しげでチャレンジ精神あふれる様子に思いをはせていらっしゃったのでしょう。
 鑑賞となるとつい作品そのものの美しさや見え方など表面的なものに偏りがちですが、氏のコメントを読んであらためて自分で創造することの大切さやそこから広がる物の見方が大切だということを痛感しました。

 蒲原氏のコレクションには将軍家への献上品として鍋島藩が密かにつくらせていた「鍋島」も多くありますが、今回はその名品たちが「将軍家への献上 鍋島-日本磁器の最高峰-」展に出品されているとのことで、残念ながら観覧することが出来ませんでした。
▲染付桃文大皿
 鍋島の中でも今回展示されていた「染付桃文大皿(肥前・鍋島藩窯 1700〜1730年代)」をご紹介しましょう。見込みいっぱいに桃文が連なった絵柄で、染付一色ですが華やか雰囲気です。
 実はこの「染付桃文大皿」の裏文様である牡丹唐草を芸術家の花山院路子氏にデザイン化してもらい、この意匠を刷り込んだ蒲原氏専用の原稿用紙を特注されているのです。原稿用紙にそっと線画でえがかれたこの意匠。きっと文様をながめながら、コレクションの整理や物書きをされていたのでしょう。
 
 この他にも会場には掛け軸や古文書など多彩なコレクションが展示されています。
個人の収集家のコレクションを見る醍醐味として作品のすばらしさだけではなく、収集家が作品に向けた眼や愛情、また収集家の美意識などコレクションの奥に隠れたメッセージを感じることができます。
 ぜひ皆さんも蒲原信一郎氏はどのような「眼」で蒐集されたのかに思いをはせて鑑賞されてみてはいかがでしょうか。




●お知らせ 
展示会場で紹介されていた蒲原氏のコメントは以下の本からの抜粋です。
県内書店などでお求めいただけます。
「白雨コレクション 蒲原信一郎のみずみずしさ(佐賀新聞社出版)」
横尾文子著

また会期中、会場でアンケートにおこたえ頂いた方に、今回新しく発行された小冊子「白雨コレクション」がプレゼント。小冊子のプレゼントは数に限りがありますのでお早めにどうぞ。

●佐賀県立美術館・博物館
【所在地】佐賀市城内1丁目15-23
【電 話】0952-24-3947
【駐車場】有
【休館日】月曜日(月曜日が休日の場合は火曜日休館)