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武雄の現代の陶芸家たち[ ―伝統・挑戦・創造―
<会期:平成19年4月20日〜5月20日>
平成19年4月21日

 さわやかな初夏の陽気のこのごろ。玄海灘を一望できる佐賀県立名護屋城博物館では展覧会「武雄の現代陶芸家たち[」が開催されています。この展覧会は佐賀県武雄市在住の陶芸家を中心としたグループ「酔陶会(すいとうかい)」のメンバーによって開催されているものです。

 やきもののまちとして知られる有田町の隣に位置する武雄市では、多くの窯元や陶芸作家が活動しています。また近年の研究では武雄古唐津焼など古陶磁の生産地としても注目されている地域です。
 今年で8回目となった「武雄の現代陶芸家たち」。毎回、意欲的な作品が発表されます。今年は全国的にも著名な11人の陶芸作家による作品が展示。
これに加え、特別展示として武雄のやきもの歴史を知る上で重要な「古窯跡・遺跡出土の陶片資料」展示も併設されており、古陶磁から現代作家の作品まで見ることができる構成となっています。

▲「海の景」(浦郷好文さん)
 まずは現代作家の作品からご紹介しましょう。日展、日本工芸会、一水会とさまざまな会派で活躍する作家の作品は見ごたえがあります。
 季節の花々などを染付で表現する浦郷好文さん(壮明窯)は、今回実験的な作品を出展。大型の花器とたくさんの小皿を使って「海」を表現した展示です。やさしいグラデーションの染付が施された染付花器「海の景」の周囲には、同じく染付で奔放に絵付けされた小皿が200近くも並びます。さまざまな絵付けの小皿が並ぶことで静かな波の動きを表現しているようです。小皿の並び方を変えれば、荒波などまた違った海の表現を見ることができそうなユニークな展示です。

▲「焼〆桜紋蓋付壺」
(松尾潤さん)
 会場でとくに女性に人気が高かったのは若手作家としても注目を集める松尾潤さん(凌山窯)の「焼〆桜紋蓋付壺」。
 壺の下部にみえる黒い土色の変化は遠くに見える山の稜線のようにも見えます。器に華やかに咲き誇る桜の花は陶器(土物)であることを忘れさせてくれるような華やかさです。
 独自の塩釉と焼き締め技法で土の美しさを最大限に活かすよう作陶されているという松尾さん。私が取材をしている時も、女性客が近寄って「とても綺麗!」・「落ち着いているけどはなやかね」と足をとめていました。

 武雄には全国的に活躍する陶芸家も少なくありませんが、その一人・中島宏さん(弓野窯)は、新しく取り組んでいるという「釉彩」シリーズの作品を出展。この作品は今回佐賀県内では初公開なのだそう。
 青磁の「青の美」を追求している中島さんですが、地元の武雄の古陶に加え、中国や韓国の古陶磁研究にも熱心に取り組んでいらっしゃいます。青磁の美しさを表現するために独特なフォルムの作品を生み出すなど意欲的な活動から、「中島青瓷」と呼ばれる独自の「青の美」の世界がファンを魅了します。
▲「青瓷釉彩壺」(中島宏さん)
 今回佐賀県内で初公開となった「青瓷釉彩壺」は、最近とりくまれている釉彩を用いた作品です。濃い土色の器面に、明るい青磁釉がはえます。よくみると釉薬は青い色に加え、淡いピンク・緑・白などが含まれており、釉薬の流れる様は神々しい滝の流れのようにも見えます。今までの作品とはまた違った「中島青瓷」の美の世界を堪能できる作品です。

▲二彩唐津の陶片
 さて武雄の現代作家たちの作品に加え、武雄のやきもの歴史を知る上で重要な古陶磁片なども展示されています。次にこちらのコーナーをご紹介しましょう。武雄では古唐津に加え、初期の伊万里焼もつくられていたことがわかっています。古窯跡から発掘されたそれらの陶片に加え、この源流となった朝鮮のやきもの「高麗青磁」や「粉青沙器」などの出土資料が並びます。

 武雄を中心につくられたという古唐津・二彩唐津の陶片など、今回出展されている作家さんたちもこれらの資料からインスパイアされた作品づくりを行うことも珍しくないのだそう。
▲叩き甕(皿屋上窯跡発掘)
 古陶磁展示の中でも注目していただきたいのは皿屋上窯跡から発掘された「叩き甕」。肥前陶器(唐津焼)の生産は、1580年代末ごろに現在の佐賀県唐津市北波多岸岳周辺ではじまったとされています。

 近年の発掘調査により、この地区に位置する「皿屋上窯」はその当時の朝鮮半島の窯構造とほぼ同じとわかりました。またご紹介した「叩き甕」をはじめ、ここから出土する製品は、朝鮮半島のものと区別がつかないほどそっくりだそうです。この「叩き甕」は器壁が薄く、口縁部には重ね積みのための貝殻の跡があります。このような特徴は朝鮮半島の製品と酷似しているのだとか。
朝鮮から伝わった作陶技術がこの地域から有田そして武雄と肥前地区に広まっていったことがうかがえます。

 やきもの産地としては広く認識されていない武雄ですが、この展覧会を鑑賞することで、やきもの生産の草創期、そして現代作家のとりくみと二つの側面から「武雄のやきもの」を知ることができます。「酔陶会」の活動、及び武雄の古陶磁研究を鑑賞することで、やきもの産地としての「武雄」の魅力をより多くの人に知っていただける展覧会ではないでしょうか。


●佐賀県立名護屋城博物館
【所在地】
唐津市鎮西町大字名護屋1931-3
【電 話】 0955-82-4905
【駐車場】
【休館日】 月曜日(祝祭日の場合は翌日)、年末年始