
寄贈記念 青木龍山回顧展
<会期:平成21年6月19日(金)〜7月20日(月・祝)>
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平成21年7月1日 |
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平成17年、九州の陶芸家としては初めて文化勲章を受章。そして平成20年4月に81歳で死去された陶芸家・青木龍山さん。次なる作品づくりに没頭されていた矢先の訃報は日本の陶芸界にも大きなショックを与えたといいます。そして今年、平成21年の1月に、ご遺族から龍山さんの作品61点が佐賀県に寄贈されました。
今回はこの寄贈された作品とご遺族が所蔵されている作品などを合わせて113点が九州陶磁文化館にて展示。「青木龍山」の世界観を展観し、日本陶芸界の最高峰の作品を堪能できる展覧会となっています。
今回の展覧会は、「第1章:伝統の中から」・「第2章:天目との出会い」・「第3章:青木天目への旅」・「第4章:おわりなき挑戦」・「第5章:飾り皿・茶道具・陶板など」と5つのコーナーで年代順に構成されています。「青木龍山」の美の世界がどのようにして生まれ、どのようにして発展していったのか。一人の芸術家の足跡を見ることができる構成となっています。
私がおじゃました6月27日は、学芸員さんによる展示解説会が開催されており、県内はもとより九州各県から多くのファンが訪れ、会場は大変な混雑となっていました。
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▲染錦『華紋』壷 |
龍山さんというと「黒い作品」いわゆる「天目釉」の作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?しかしこの天目釉づくりに至るまで、様々な模索に取り組まれていたことが、最初の展示コーナーで見ることができます。「第1章:伝統の中から」では昭和29年から昭和41年ごろまでの初期の作品が紹介されています。「染付」・「色絵」など伝統的な技法を取り入れつつも、大胆な文様構成や表現方法はそれまでの伝統的な装飾を主としてきた有田の陶業界に一石を投じたのではないでしょうか。伝統を大事にする有田の地にて、独自の世界観を表現する作品づくりをにチャレンジしていた青木龍山さんは、ときには「異端」と見られることもあったそうです。
写真の「染錦『華紋』壷」は昭和30年の作品です。菱形の花文を連続であらわしたものですが、その表現方法は大胆。太く力強い筆致で描かれた赤い花の縁取りからは、作家の内面までも伝えてくれるような生々しさがあります。この作品以降も、染付の濃淡を表現したり、大胆な彫りをほどこした作品を発表するなど、幅広い表現方法で作品づくりを模索されていた様子がうかがえます。
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▲天目細口長花瓶 |
昭和38年には「天目作品」の原点ともいえる「黒」が日展に入選。それから数年した後、「天目作品」に没頭されていくこととなります。「私のやきものは、内面から爆発する感動や存在感を姿、形すなわちフォルムにぶつけるものです」という青木龍山さんの言葉があるそうです。天目釉を用いた作品は、その形状を追求することで、作品の完成度を高めていかれたとのことです。
「第2章:天目との出会い」の中でひときわ目をひく作品がありますので、ご紹介しましょう。「天目細口長花瓶」は昭和30年代の作品。天目に取り組みはじめたころの初期の作品で、高さが約90cmもある細長い形状となっています。形自体はシンプルな瓶型ですが、ここまで高さがあると何か精神性を秘めているようにも感じさせます。龍山さんの作品の中でも、これほど大きなものはこの作品のみとのことでした。先のご本人の言葉のとおり、そのフォルムから何かをうったえかけようとされていたのでしょう。
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▲天目『容』 |
「第3章:青木天目への旅」では天目を主としたダイナミックな作品が次々と見る人にせまってきます。「龍山作品は、形状が複雑な場合は釉薬はシンプルに、逆に形状がシンプルな場合は釉薬による表現が凝ったものになっている点も鑑賞のポイント」と学芸員さん。
さきほどの「天目細口長花瓶」のようにインパクトのある形状の作品「天目『容』」をご覧ください。ゆったりとした形に、なにやら不思議な突起物。この突起物の切り口には様々な角度がつけられており、何かの動きを感じさせてくれます。実はこの突起物、海辺に設置してあるテトラポットをイメージしたものだそう。
この形状のシリーズの作品はいくつか展開されていますが、これは海原と岸壁をイメージしたシリーズだそうです。
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▲容韻 |
同じく海を表現したのではと思われる作品に「容韻」があります。こちらは釉薬の表現にご注目。黒一色の天目ではなく天目釉の中に、明るい黄、緑、青などの横筋状の文様が展開されます。まるで波間を表現したような雰囲気ですが、龍山さんはこういった表現を「渚天目」と称していたそうです。これまでは、釉薬が器の上から下に流れる変化が主だったのが、横に続く釉薬装飾シリーズ「渚天目」が展開されていきます。
さまざまな作風の展開を見ていくことで、龍山さんが追い求めていた美の世界を垣間見ることができます。
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▲想苑 |
天目の表現を極め、作家としての名声を得たあとも、その旺盛な制作活動はとどまることがありません。
「第4章:おわりなき挑戦」では、さらに新しい表現にチャレンジする龍山作品と出会うことができます。平成10年代になると、文様を描く作品が増えることとなります。その文様表現も実に多彩。作品「想苑」はこれまでの「青木天目」とはがらりと違ったイメージの作品です。よく見ると表面はざらりとしたマチエール。この上に、呉須を施し、さらに掻き落としを加えます。そして白地となった部分に、筆で金彩を施したという非常に手の込んだ工程で作られているそう。
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▲愁 |
また「愁」という平成18年の作品の前でも思わず足をとめてしまいます。ゆったりとした器形に、暗闇の中から浮かび上がる白い花。この花は櫛のようなもので彫りが施されており、その表現は油絵のような雰囲気を感じます。
若いころから絵を描く才能があったという龍山さんですが、晩年になってその才能が再び開花されていったのではとのことでした。
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▲染付釉彩皿 郷愁 |
ここまで年代別に龍山作品の軌跡を見ていきましたが、「第5章:飾り皿・茶道具・陶板など」では、展覧会出品作品ではない、茶道具などといった小品も見ることができ、ファンには興味深い章となります。ここでちょっと驚くような作品を見つけました。
なにやら陽気な雰囲気の「染付釉彩皿 郷愁」。子供の絵のようにも見えますが…これは平成元年から2年ぐらいにかけての作品だそうで、幼い孫が描いたアニメのキャラクターをモチーフにしたのだとか。身の回りで発見する様々なものを創作表現に取り込んでみようとする芸術家の姿を伝えてくれる作品です。
会場では陶芸作品だけではなく絵画作品や、技法を解説したパネル、龍山さんの言葉を紹介するパネル、そして龍山さんの作陶風景の写真なども展示されており、まさに龍山ワールドにひたれる空間となっています。
一人の芸術家がとりくんだ仕事の軌跡にふれることで、その創作意欲の素晴らしさを感じつつも、人間のもつパワーをも教えてくれるような展覧会でした。佐賀県の陶芸作家ではありますが、一堂に作品を鑑賞できる機会はなかなか少ないものです。ぜひこの機会に会場に足をお運びいただき、一人の芸術家のいきざまに触れてみられてはいかがでしょうか。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町戸杓乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12/29〜12/31
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