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初の「秋の有田陶器市」を振り返って
▲秋の有田を散策
 春と秋はやきもの好きにとっては心浮き立つシーズン。次はどこの陶器市に行こうか、今度はあの窯元を訪ねてみようか、時にはやきものが並ぶ美術館を巡ってみようなど思いを巡らすのも楽しいものです。そして実際に足を運び、いい商品を手に入れ、満足な買い物をしたときには、ついつい次回も来るぞと決意を固めてしまいます。読者の皆様、今年の秋はいかがでしたでしょうか?
 さて、秋の佐賀のやきものイベントもひと段落しましたが、今年は「秋の有田陶器市」と銘打ったイベントがやはり注目を集めていました。今までは秋の有田のイベントは各商店会や窯元、組合などがそれぞれの趣向と日程で、独自のイベントを開催してきました。窯元が開催する「窯元市」、有田焼卸団地では恒例となった「ちゃわん祭り」、各商店会が開催する「べんじゃら祭り」、うーたん通りの「うーたん通り秋の窯元祭り」などなど。しかし春の有田陶器市に較べるとその集客数や売上額は格段の差がありました。そこで、今年は「秋の有田陶器市」という統一テーマのもとにテコ入れがなされたのです。

 べんじゃら祭り実行委員会の打ち合わせには、各商店会や窯元・組合・まちおこしグループ、文化施設、そして町・県の観光課の担当者などが集まり、喧々諤々の議論の末、統一テーマの設定や受け入れ準備、プロモーションが進められてきました。その結果、JRのウォーキングやスタンプラリー、旅行代理店の秋の有田陶器市ツアーなどが企画されました。
 秋の有田陶器市のコンセプトは、「春の有田陶器市とは違いおもてなしと、やきものの町をゆっくりのんびり散策してもらい、やすらぎのときをたのしんでもらう」ということでした。期間は11月23日から27日までの5日間。期間中は各商店会・施設ごとに様々なイベントが実施され、例年になく多くのお客様がお見えになっていました。その結果、来場者数は10万人(昨年6万)と発表されました。

▲みごとな紅葉の大公孫樹
 今回の秋の有田陶器市の特徴をかいつまんで紹介しますと、先ず初日にはJR主催のウォーキング参加者やツアー客が目立ったようです。秋の有田の観光スポットとして大公孫樹、とんばい塀、古民家などに人気があったようです。さて買い物客ですが、前半は人出の割には少なかったようで、後半にやっと買い物客が目立ってきたようです。買い物される様子を見ていると、中には「陶器市ルック」のお客さんや値切りに情熱を燃やしているお客さんも見受けられました。
 また春の有田陶器市は人が多いので敬遠していたけど、今年から秋も陶器市があるということで初めて来た人など、通常の「陶器市」と思ってこられたようでした。あちこちのお店の方に聞いても、「たくさんのお客さんが来られたのはうれしいが、おもてなしの対応ができなかった」とか「おもてなしをしようとすると逆に『陶器市に来たのよ』と怒られてしまった」といった行き違いも生じていたようです。

 ところで、肝心の売上はというと「去年よりはいいが…」というところが多いようで、人出の伸びに較べるといわゆる客単価は全体的に下がっていたようです。これと対照的だったのが有田焼卸団地。春の有田陶器市では例年より少ない人出に驚いたのですが、今回は逆に多い人出に驚きでした。有田焼卸団地各社の努力も勿論あったでしょうが、今回は「匠の蔵・至高の焼酎グラス」の発売がこのイベントから開始されるとあって、買い求めに来たお客さんが多数あったようです。また、大手のメーカーも昨年に較べると大幅に伸びたようでした。

 ところで、今回の秋の有田陶器市にいらっしゃったお客さんの内訳を大胆に独断で昨年と比較しますと、
 ・観光客 大幅増
 ・各店舗・窯元の顧客 減
 ・新規客 やや増

ではなかろうかと思われます。この要因としては、観光客の大幅増については先に書いたとおりですが、店舗・窯元の顧客減と新規客やや増は「有田陶器市」と銘打った影響がそれぞれに微妙に影響した結果であったような気がしてなりません。ここで参考に見ていただきたいのですが、うまか陶に11月の1ヶ月間でキーワード検索で約9000件のアクセスがありました。そのうち今回のイベントに関連するキーワードが700件強でしたが、分類して割合をみてみると傾向性が見えてきます。

「有田陶器市」関連 約49% …一般的な情報収集
「焼酎グラス」関連 約20% …焼酎グラスの情報収集
「ちゃわん祭り」関連 約10% …有田焼卸団地のイベントの情報収集
究極のラーメン鉢」 約5% …究極のラーメン鉢の情報収集
「べんじゃら祭り」等
他のイベント関連 約3%
…ちゃわん祭り以外のイベント情報収集
ツアー関連 約2% …有田のツアー情報収集
その他 約11% …陶芸体験、MAP、宿探し等

 これはうまか陶を見た人たちの情報収集の目的・意識を表していると考えられます。「有田陶器市」関連の内訳は、「秋 有田陶器市」と入力された数は約半数、残りの半数は有田焼+陶器市+イベントなどの複数のキーワードで「何か、おもしろい」情報等を探されています。
 ところで「有田陶器市」以外の「焼酎グラス」「ちゃわん祭り」「究極のラーメン鉢」は有田焼卸団地に関連するキーワードとなっており、その数の合計は35%となります。ここで、公表された来場者数の内訳をみますと、期間中の来場者数10万人のうち7割の人が有田焼卸団地を訪れています。これらの数字から推測すると、特定の目的、あるいは話題性のあるモノを求めて人々の足は向いているようです。その結果有田焼卸団地に人が集まったと言えるのではないでしょうか。

▲至高の焼酎グラスコーナー
さて、ここで経済効果という視点で各客層をみてみますと、今回は観光客の効果は少なかったようです。店舗で購入される観光客は非常に少なく、食事・施設等の利用料が大半のようです。新規客・既存顧客を見てみると一人当たりの購入額が昨年よりも低いというのが店舗側の感想でした。ところが有田焼卸団地の「至高の焼酎グラス」だけは好調な売れ行きを示していました。焼酎ブームでもあり、先に出された陶"楽座開発の「香酒盃」からの話題性を継承しながら人々の耳目と足を集めたようです。一昨年の「究極のラーメン鉢」同様、焼酎グラスが今回の秋の有田陶器市の牽引役となったと言えるでしょう。

 「有田陶器市」と銘打った今回の秋のイベントとしては、その集客数からみれば概ね成功といえると思えます。また、受け入れ側の意識の変化や対外的な認知度のアップも見られ、その効果も少しずつでてきているようです。しかし、反面いろいろな課題も浮き彫りにされたのではないでしょうか。今後も「秋の有田陶器市」とするならば先ず第一に観光客に喜んでもらう対策が必要となるでしょう。観光素材としての有田は大公孫樹あり、トンバイ塀あり、有名窯元ありで、個々のスポットは好評でしたが、食事をするところが少ない、駐車場が少ない、移動の交通手段が少ないなどなどハード面での充実が課題のようです。さらにソフト面での充実も図っていかないと感動を呼ぶ観光地にはならないのではないでしょうか。

 ところで、やきもの好きにとっての「秋の有田陶器市」はどうだったのでしょうか? 秋の有田を楽しみに来られるお客様の目的は様々で、一概に結論付けることはできないでしょう。しかし、多くのやきもの好きの方は、店主や窯主との語らいを楽しみながら、時には景観を眺めつつ、時には有田の名物を食べながら、いい器を見つけ出して満足できる買い物をしたいという思いが強いと思います。秋の有田陶器市に来られたお客様の声を拾ってみると、初めて参加された方などは、「春の有田陶器市の出店数に較べると秋は出店数が少ない」「陶器市のムードづくりがされてなくて、賑わいがあまり感じられない」といった意見が聞かれました。逆にリピーターの方々の意見としては「陶器市ではなく別のネーミングにしてほしい」という意見があると思えば、「春と同じように安いのがいっぱいあってほしい」と様々。

 今回の「秋の有田陶器市」では、観光客の方や初めて有田陶器市を経験された多くの方々からアンケート等が寄せられています。その多くは「よかった」といった賛辞が多かったようです。この賛辞を大事にしつつ、上記の生の声を活かして今後の有田の再生を図っていただき、有田に来た人々に感動を与えてもらいたいものです。「秋の有田陶器市」の本当の成果はこれから、そして次の秋の有田陶器市に現われてくるでしょう。




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