トップ >> うまか陶ジャーナル >> 日本初の電子レンジ対応酒器「至福の徳利&盃」

「至福の徳利&盃」
▲さまざまな絵柄で登場した「至福の徳利&盃」
 昨年好評を博した「至高の焼酎グラス」。それを開発した商社と窯元が一体となったプロジェクトチーム「匠の蔵」から、今回第2弾として登場してきたのが「至福の徳利&盃」。さてどんな機能が付加されているのか、またどんなストーリーが隠されているのでしょうか、有田焼卸団地協同組合の匠の蔵委員長になられた百田憲由氏(百田陶園社長)にお話を聞きました。

― 昨年が焼酎グラス、そして今年は日本酒の酒器がテーマになっていますが、酒器を選ばれた理由をお聞かせください。

▲匠の蔵委員長
百田憲由氏(百田陶園社長)
百田氏 昨年、焼酎グラスを販売した時、営業の担当者が関東の方から「日本酒のグラスをもってこい」と言われたそうです。私も仕事柄よく東京に行くのですが、東京のホテルのバーでは日本酒をベースにしたカクテルが登場し、若い女性に人気が出ていました。それと、六本木や赤坂、銀座にはお燗番がいるお燗専門のバーができていました。
当然日本酒の業界のテコ入れもあったと思いますが、そういう情報をキャッチしましたので、「このタイミング!(笑)」と。
 
― なるほど、では今回の酒器を開発するうえで、苦労されたことは何でしょうか?

百田氏 こだわることにおいては同じなのですが、とにかく手間ひまがかかりました。恐らく前回の焼酎グラスの時に較べると4、5倍の手間がかかったと思いますよ。

― えっ、それはどうしてでしょうか? 昨年の経験があるので早くできたのではないんですか?

百田氏 日本酒には純米酒や吟醸酒などいろいろな種類がありますね。それを飲む道具としても盃あり、ぐい呑みありと色々あります。そして酒の温度も冷酒あり、ぬる燗、熱燗と様々です。日本酒に合わせて開発しようとしたので、壁にぶち当たりました。例えば、日本酒は湯せんにかけたほうが旨いということなのですが、湯せんにはフラスコの球形が一番なんです。ところが、やきものではフラスコの球形が難しいんですよ。他にも問題が山積みでした。
そんな折、佐賀県の名酒「東一」の勝木製造部長から連絡があり、「是非、自分も参加させてほしい」という申し入れがありました。勝木部長はその筋では全国に名が知られた方ですので、こんなにありがたいことはありませんでした。早速お伺いして、色々とご指導いただけるようになりました。

― 勝木部長からはどんなアドバイスがあったのですか?

▲工夫がこらされた徳利と盃
百田氏 壁にぶち当たっているときであり、「考え方がまちがっている」と厳しく言われましたね。「家庭でおいしく飲むには…というコンセプトじゃないとダメだよ」と、「奥さんは湯せんをしないだろう」、「どこの家庭にも電子レンジがあるだろう」、でも「電子レンジでお燗をつける道具がないんだよ」と。
「ナルホド!」私たちには衝撃でした。課題が多すぎて、シンプルに考えることができなかったのですね。これで方針がハッキリしたわけです―「電子レンジ対応の酒器」。
 勝木部長からは更に要求があり、「(1)我々もこまっているが、電子レンジでは均等にお燗がつけられるものがないので、均等にお燗がつく徳利」。「(2)一升瓶からでもこぼさず、キレイに注げる酒器」、そして「(3)奥さんがよろこぶように、洗いやすい形」と。
これに、私のこだわりとして、(4)酒好きが嫌う注ぎ口からの後びきを無くすことを加えました(笑)。今回はこの4つの機能をもつ徳利にこだわり、形状を検討しました。

― 4つの機能でどれが一番大変でしたか?

百田氏 徳利の注入口を広げれば(2)と(3)は解決しますが、(1)のお燗を均等につけるというのが一番難しかったですね。何度も試作品をつくっては「チーン」するのですが、徳利の上下では10度以上の温度差がでるんですよ。有田町の窯業試験場に聞いてもわからないので、奈良県にある松下電器の電子レンジの工場にアポを入れて行き、電子レンジの勉強をしてまいりました。そして、この形になりました。

― 温度差を無くすポイントは何でしたか?

▲その形づくりには様々な苦労が
百田氏 金属は電子レンジが出す電磁波をなかなか通さないそうです。やきものも鉱物なので電磁波を通しにくいということらしいです。だから皿に載せた物はちゃんとあったまるんですが、丼に入れた煮物の下の方が冷たいときがありますね。要は体積、形ですよね。最適な形がこれだったんですね。
 最終的には温度差が4度まで縮まりました。松下電器さんは「7度以下だと大したもの」と言われました。4度の差ですと、「チン」した後から飲むまでの間に対流が起き、ほとんど温度差がなくなってしまいます。
どのレンジにも入るようにこのサイズにして、形はこれで決まりましたが、後びきしない注ぎ口の形を決めるにも10回ほどの試作をしました。何度やってもポタポタと落ちてくるんですよ。テレカを切って折ったものは後びきしないので、それをヒントにつくりました。これだと、まったく後びきをしないんですよ。

― えっ、本当に後びきをしないんですか?

▲実演される百田氏
百田氏 本当ですよ。(実際に注いで実演)ほら、一気に注いでも、チョロチョロ注いでもピタッと止まりますよ。一見こぼれてないようでも、徳利の底に溜まって丸く輪っかに残ることがありますよね。でもこの徳利だと、それもありません。
ということで徳利の形状が決まり、これにお燗をした酒を冷まさないためと衛生面とを考えて蓋をつけました。

― 徳利とあわせて盃もつくられていますが、どうして盃だったのでしょうか?

百田氏 当初はぐい呑みも検討していたのですが、日本酒をおいしく呑むには盃じゃなければならないというお話を聞いたので、盃のみで勝負しました。

― 盃で呑むほうがおいしいのですか?

百田氏 ええ、盃は口が広いので口を横に開いて飲みますね。その時酒と一緒に空気も口の中に入って、酒と空気が化学反応をおこし、酒にまろやかさを感じるそうですよ。
そこで、盃でこだわってみました。例えば、口当たりをスッキリさせるために、できるだけ薄いつくりにしています。また、スッと取りやすくするために高台を高くしています。さらに、ダイヤ型の高台にしていますので、握りやすいですよ。ほら、(高台を握る指を動かしながら)こうすると指先で盃を返せて呑みやすいですよ。そして、サイズは大中小の3種類を用意し、高さも揃えていますので見栄えもいいですね。

― 実際に使われているお客様からはどういう反応がありますか?

▲豪華な絵付けタイプも人気
百田氏 非常に好評ですね。ある飲食店の方のお話では、徳利と盃を3つ並べてお盆に載せてお出しすると、ほとんどのお客様が大杯を取られるそうです。「大名気分」を味わいたいということらしいですね。
 また、以前焼酎グラスを購入していただいたお客様は、同柄で買われて焼酎を飲むときの水差に使っていただいているなど、私どもの想像以上の使い方をしていただいているなと感じています。


― 昨年は6窯元が参加されていましたが、今回は?


百田氏 今回スタートする際に、前回参加された窯元さんに「どうしますか?」と聞いたら、全員参加すると言われました。前回成功したので、皆さん前向きでしたね。ただ、前回の焼酎グラスがまだまだ売れ行きも好調ですので、今回は新たに6軒の窯元さんにも入ってもらいました。焼酎グラスより窯元が増えた分、絵柄も違うものを楽しんでいただけると思います。家庭でもお店でもおいしく、そして楽しく飲んでいただける万能酒器になったと思っています。


 限られた誌面ですので、紹介できなかった特徴がまだあります。興味のある方はお店で手にとって、その特徴を探してみてください。
商社と窯元が一体となって取組んだ「匠の蔵」の商品が2回とも成功したことは、不況に苦しむ産地有田にとっては明るい光のように感じます。さて、来年はどんな商品が出てくるのでしょうか、今から楽しみでもあります。




取材協力:有田焼卸団地協同組合

Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD
このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます