トップ >> 元気印の窯元 >> 益次郎窯
益次郎窯
ますじろうがま


 みなさんは「伝統工芸士」という言葉をご存知でしょうか?「伝統工芸士」とは、経済産業大臣指定伝統的工芸品の製造に、直接従事する技術者を対象におこなわれる伝統工芸士認定試験にて、実技、知識の試験に合格した者に与えられる称号。技術者として高く評価される「伝統工芸士」は、有田焼、伊万里焼の分野にもいらしゃいます。今回はそんな伊万里・有田焼伝統工芸士である、廣澤益次郎さんと、廣澤さんの奥様で絵付けをなさっている設子さんの窯を訪ねました。

―おじゃまします。ご自宅で窯元業を営んでいっらしゃるんですね。実は住宅街だったんで、ちょっと道に迷ったんですよ。でも、あちこちに窯の看板を上げていらっしゃるお宅もあって、さすがやきものの街といった感じですね。

 そうですね。私も初めて有田へ来た時には、すごい街だなと感動したものです。
 
―あれ?廣澤さんのお名刺に、茨城県のマークに、「いばらき大使」という名称がついていますが、これは一体何ですか?

 実は、私は茨城県の出身なんですよ。それで、出身地である茨城をPRしようというのが、「いばらき大使」なんですね。幼い頃、近所に遺跡がたくさんありまして、畑を掘れば、土器のかけらなんかがごろごろ出ていた所だったんですよ。今思えば、やきものに興味を持ったのも、この頃からかもしれませんね。いつも土器などを目にしていたせいか、考古学が大好きになって、東京国立博物館にも足を運んでは、よく発掘品なんかを鑑賞していました。今でも大好きなので、考古学の本はよく読みます。文章を書くのも好きで、同人会の「佐賀文学」で小説や随筆を発表しています。私の発表した文章を気にいってくださった方が、作品展に見に来ていただいたというエピソードもあります(笑)。

―ところで、廣澤さんはとてもマルチな方のようですが、どうして有田焼のお仕事に就かれたのですか?

 実家が農家で、私は二男坊。必然的に、家を出て、独立しなくてはと考えていました。はじめはやきものとはまったく違う職に就いていましたが、自分の中で何か違うなと思っていました。ほかに自分がやるべき仕事があるのではと、模索している時に、ふと幼い頃に見ていた、笠間焼のろくろ職人の仕事風景が鮮明に思い起こされたんです。「ああ、これだ。自分はやきものをやりたかったんだ」とひらめき、単身有田を訪ね、とある窯元さんにて修行させてもらいました。今でも覚えているんですが、入門をお願いしにおじゃました時に、そこで作った湯呑みでお茶を出されたんですね。その湯呑みがとてもすばらしく、「こんな物をつくれるようになりたい!」と強く夢を抱いたものです。

―そうですか。設子さんもやきもののお仕事をなさっていたんですか?

 (設子さん)いいえ、私は主人と結婚してからのことなんです。もともと、手作業が好きではあったのですが、主人の影響もあり、3人目の子を出産したのちに、有田窯業試験場で絵付けを勉強しました。その後、磁器メーカーに勤め、今は主人が成形した器に絵付けをするという二人三脚の製作をしています。絵付けだけではなく、最近は和紙染なども15年前から手がけています。主人はこう見えても、結構厳しいのですよ(笑)。かなり鍛えてもらいましたね。
よく桜の花をモチーフにしたものを絵付けしていますが、私自身が好きな花なんです。見た方から「とてもきれいね。」「お花見しているようだ」と言っていただけると、本当に嬉しいです。

 (廣澤さん)謡曲「桜川」の発祥の地は茨城ですからね(笑)。

―廣澤さんは、磁胎象嵌というものに取り組んでいらっしゃるそうですが、どういう技法なんでしょうか。
 
 はい、まず成形した器に線彫りを施します。その溝に成形した磁土と同じ土に顔料を混ぜた物を塗り重ねていきます。何度も溝の部分に塗り重ねます。成形したものに、なにかを加える場合、乾燥時に収縮率がお互い違うと、ヒビなどの原因になりますので、気をつけて行いますね。この技法などを取り入れて、私は「豊穣シリーズ」と名付けた作品を製作し続けています。これは、私の父が農業だったことに影響しているのですが、昔は田畑を耕し、実りを得ることに、「祈り」や「感謝」が息づいていました。その気持ちを大事にしていきたいという、願いをこめて、木の実などの植物をモチーフにシリーズ化しています。
その他、蓋物もよく製作しますね。蓋物って、何かはいっているのかなと、ワクワクする楽しみがあるじゃないですか(笑)。蓋物は蓋と、本体を別々につくるんですよ。だから、これも収縮を計算していないと、きっちり収まらなくなりますね。神経を使う仕事ではあります。
 
(設子さん)よく蓋物をつくっているからでしょうか、オリジナルで、自分が気に入った骨壷をつくりたいという方もいらっしゃいますよ。

―わあ、そうなんですか。将来はどういったやきものづくりを目指していらっしゃるのですか。

 そうですね、あくまで私達はマイペースでいこうと思っています。ただ、物づくりをするにはいろいろな情報を摂取しなくてはいけません。山には山の、街には街の表情があるように、そういった事に敏感であり続けたいですね。できあがった物に、言葉はつきませんから、見る人にどう感じていただくかが勝負のしどころではないでしょうか。

 冗談を言ったり、すばやくフォローを入れたりと、廣澤さんご夫妻は、とても仲の良いご様子。お話を伺った後、お仕事場を見学させていただきました。成形して乾燥させた器に、ろくろと刷毛をつかって「水拭き」をされる作業でしたが、先ほどまでの和やかな空気とは一変して、ピンと張り詰めた雰囲気に。すばやく、そして正確に作業をされる廣澤さんを見ていると、静かな迫力が伝わってきます。
自然を愛する温かな気持ちと、確かな技術で生み出される器が、人に感動を与えることがちょっぴりわかったような一日でした。
佐賀県立九州陶磁文化館にて平成14年8月3日(土)から9月1日(日)まで開催予定の、第1回伊万里・有田焼伝統工芸士展に廣澤さんの作品も出展される予定です。この展覧会は伊万里・有田焼伝統工芸士の作品を一堂に展示するものです。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
DATA
益次郎窯
所在地 〒849-4107 佐賀県西松浦郡西有田町
曲川乙2347-43
電 話 0955-46-3816
展示場
交 通 JR有田駅から車で10分
駐車場
店休日 不定休(おでかけ前に電話連絡ください)
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD
このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます