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酒井田柿右衛門氏 酒井田柿右衛門氏
■14代酒井田柿右衛門氏■Profile
陶芸作家
日本工芸会常任理事
佐賀県陶芸協会会長
無形重要文化財保持者

― 柴田さんとお会いされたときの印象はいかがでしたか。

 最初こちらにいらっしゃった時は、非常にお若かったのに、前向きでまじめな方だなというのが第一印象ですね。有田のやきものに造詣が深く、有田に限らず全般にわたって詳しかったですから、やきものが好きな方だと思いましたね。
酒井田柿右衛門氏その後、お会いする度に色々なお話をしましたが、できあがったものを鑑賞するだけでなく、歴史であるとか、技術とか、材料にも詳しく、本当の有田のことをご存知でした。とにかく幅広く、行動そのもので深く掘り下げて考える人でした。かといって評論家ではなく、外にいる人ですが、職人のような感じがしましたね。
そして有田の将来のために、努力をしていただいたと思っています。こういう人が有田にいらっしゃったということは本当にありがたいことです。
私も日本だけでなく、海外の専門家とも随分話しをしましたが、あれだけ有田焼のことをご存知だった人はいませんでした。にも関わらず、現場の人であったような感じがしましたので、身近な相談相手というか仕事場にいてほしい人でしたね。

― 柴田コレクション展PartTは柿右衛門様式を中心とした展示でしたが、ご覧になっていかがでしたか。

酒井田柿右衛門氏 見たことがないようなものがいっぱいあって、戸惑いましたよ。「よく、こんなものがあったものだ」という驚きですね。その時、いろんなことを聞きました。「どこから手に入れたのですか?」とか「どうやって探したのですか?」とか、今考えると変な質問しかしてないですが、それだけ驚いてしまっていたんですね。
これだけのものを蒐集されるとは、よほど有田を好きだったんでしょうね。私なんか足元にも及ばないと思いました。

― 柴田さんは最初に柿右衛門様式を蒐集されていますが、柿右衛門様式のどこに魅力を感じられたとお考えですか。

 土の美しさと、デザインの美しさでしょうか。有田の白い陶石の素材の美しさ、土味はなんともいえない表情をしていますからね。柿右衛門様式は余白に特徴があり、その余白の生地に、今はないですが、当時は少しアバタがあります。それも景色として魅力を感じられたと思います。

― 以前、窯の職人さんたちと九陶の柴田コレクションの展示室によく行かれて、勉強をなされたとお聞きしたことがあるのですが。

 何人か連れて行きましたし、若い職人たちは自分たちだけでもよく行っていたようですね。自分の目で見て、手で触ってみれば大体のことがわかりますからね。美術品だけではなく、そういうふうに技術を持った人が見られる場を提供してくださったのは柴田さんしかいないですね。
酒井田柿右衛門氏そう、1年ぐらい前に、こういうことがありました。先ほども言いましたように、実物を見て、手で触れば大体のことがわかりますが、最後のところは切断してみないとわからないんですよ。今でも仕事の終わりとか、初めに素焼き前のものを切断して確認するんですが、柴田コレクションを見ていると、切って断面をどうしても見てみたいと思うわけですよ。そこで、柴田さんに「これを切断してもいいですか」と聞いてみました。すると「いいですよ。そのほうがいいかも知れませんね」と、いとも簡単に言われました。普通だったら「えっ、どうして?」と聞かれるでしょう。ところが柴田さんは、職人の気持ちがわかってらしたから、いいですよと言われたんでしょうね。

― で、切断されたのでしょうか。

 いえ、その後、柴田さんが入院なされて、ついに実現できなかったですね。
昔のものを見ていると、ゆったりとしていて素朴な感じがする一方、キリキリとは見せてないところがあって、一見重そうに見えるんですよ。ところが実際に持ってみると、軽くて持ちやすい。一体どの辺に土を置いているのか、無駄な土がないですね。そのロクロの技術にびっくりします。やはり職人としては断面を見て確かめたいと思いますね。

― では、最後に一番印象に残っていらっしゃる柴田さんとの思い出はどのようなものでしょうか。

 「江戸時代に行ってみませんか?」とおっしゃられたことですね。私も、行きたいです。昔の人の技術をこの目で見てみたい。いろんな窯で、やきものをつくっている人たちと話しをしてみたいですね。
柴田さんは私の気持ちの中に、そういう置き土産を置いていかれました。


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