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「究極のラーメン鉢」の人気 〜プロジェクトAritaのチャレンジ〜

 皆さんのご家庭ではラーメンを食べるときはどんな器で食べていますか? 
うどん鉢? それとも多用鉢ですか? 中には鍋のまま食べるという方もいらっしゃるのでは?


  今年の101回有田陶器市で販売が開始された「究極のラーメン鉢」は、陶器市終了時点で予約まで含めると4,000個を上回る売れ行きをみせています。陶器市後も東京、福岡などのデパートで展示販売が予定されていて、販売個数は更に増えるのは確実のようです。有田の陶磁器では稀にみるヒット商品となった「究極のラーメン鉢」と、それを生み出したプロジェクトAritaのチャレンジについてうまか陶流の視点で探ってみました。

 プロジェクトAritaがスタートしたのは、平成15年12月初めのこと。NHKのBS2「おーい、ニッポン」をご覧になった読者の方はご存知でしょうが、同年10月にNHKから「地場産業を活性化させるモノづくりのプロジェクトを有田で」という1本の電話からこのプロジェクトが立ち上がったそうです。このプロジェクトに参加したのは次代の有田焼を担う陶交会から14窯元が参加。商品化する商材として有田では今までつくられることがなかった「ラーメン鉢」に決定。従来、有田焼は業務用食器を主流とした生産体制をとってきたため、一般の家庭用食器を開発することが少なかった。そこで、このプロジェクトでは、今後も継続的に活動できるテーマで、各窯元たちが家庭で使われる器をイメージしながら商品開発をするきっかけづくりをしたいという意図もあったようです。
 当初、プロジェクトでは各窯元がそれぞれに思い描く「究極のラーメン鉢」のサンプルを作った。各窯で作られたサンプルを持ち寄りながら試行錯誤の末、2種類のサンプルに絞られていった。そして、プロジェクトの代表たちは完成したサンプルを持って勇躍大阪・横浜へ飛んだ。しかし、その評価は思いもよらぬ言葉で、プロジェクトのメンバーの自信を打ち砕いてしまった。

「熱くて持てない、それに大きすぎる」
「お湯に麺が浸らない」

商品開発の難しさがここにあるようです。往々にして開発者のイメージや思いとは違うところに使う人のこだわりがあります。開発者はややもすると材質、伝統的な形状、品質にこだわりがち。しかし、使う側は持った感じ、洗いやすさ、収納性、そしてデザインと価格で選ぶ傾向が強いといえます。
その後、ラーメン鉢のコンセプトが見直され、家庭で最も食べられているチキンラーメンに適したラーメン鉢という明確なターゲットに絞り込まれた。そして、型は一つに統一され、その型に各窯元が得意とする絵付けを施すことが決定された。その後、鉢の形状を検討し、持ちやすさ、軽さなどに改良が加えられ、ついに「究極のラーメン鉢」が完成。

 そして、お披露目となった有田陶器市の展示会場では、14窯元それぞれの力作が数点ずつ、ずらりと一堂に並んだところは壮観でした。期間中、展示会場では人の波が途切れることがないかのような盛況ぶりが続き、広い陶器市会場のあちこちでも、「ラーメン鉢はどこ?」という声が聞こえていたそうです。
 では、有田焼の商品では珍しい、この人気がどうして生まれたのでしょうか? 
時系列に追ってみると、

2003年 10月 NHKより有田商工会議所に「おーい、ニッポン」の出演依頼。
 〃   12月 プロジェクトAritaが発足。
2004年  1月 サンプルを大阪・横浜へ持ち込み、評価を問う。
コンセプト、形状の再検討。
〃 2月18日 佐賀新聞でプロジェクトAritaの紹介記事を掲載。
〃 3月7日 NHKのBS2「おーい、ニッポン」で初お目見え。
〃 3月9日 佐賀県立九州陶磁文化館で開催された第19回有田陶交会展にて展示。
〃 4月21/22日 佐賀県庁ロビーで展示、地元TV局がニュースで放送。
 〃 4月29日〜 有田陶器市で店頭に並ぶ。全国紙・地方紙等で掲載。

 これで分かるように、商品が店頭に並ぶ前からマスメディアに何度となく紹介され、認知度が高くなっていた、と言えます。特に「おーい、ニッポン」ではNHKの人気番組「プロジェクトX」のようなストーリー仕立てに構成されていた。尚且つ9時間という長い時間の中でプロジェクトの経過が細切れで挿入され、次を見ないとどうなったかが分からないという小憎らしい演出となっていて、否が応でも「究極のラーメン鉢」という商品名が刷り込まれてしまった。この番組の効果は非常に大きかった。更に放送後には佐賀県のバックアップもあり、各メディアで取り上げられ、その効果を陶器市まで持続できていた。
 一方、内的要因をみてみると、有田焼というブランドイメージに新しいチャレンジという期待性の付加価値、プロジェクトメンバーには人気窯元が名を連ねていた、またチキンラーメンという意外性など、様々な話題性を持っていた。この話題性があったからこそ、メディアの効果が生き、ヒット商品となったといえるのではないでしょうか。しかし、息の長いヒット商品、プロジェクトAritaが目指す「究極のラーメン鉢」として家庭でのスタンダードとなるにはこれからが勝負となるでしょう。その鍵をにぎるのはいつに商品力にかかっているようです。

 プロジェクトAritaの座長である寺内信二氏(李荘窯)はこのプロジェクトを通して、「消費者に向けてのモノづくりの仕方や、マーケティングのやり方などが分かってきたし、1つの窯ではできないことが、グループでやればそれぞれのノウハウや技術を持ち寄り、大きなことができる」とその成果を評価。そして、プロジェクトAritaは次の目標に向け既に始動していて、「次はレンゲ」と寺内氏は語ってくれました。
プロジェクトAritaのチャレンジにより投じられた一石は大きな波紋をつくりだした。また、思わぬ影響も幾つかあったのではないかと思われます。その一つとして、「時期もよかったが、今年の有田陶器市に話題を提供した。今後も来ていただけるお客様を大切にする企画が必要」と徳永隆信氏(幸楽窯)が語る以上に、今年の有田陶器市の目標となっていた来市者100万人達成に少なからず貢献したことは否定できないでしょう。



取材協力:株式会社 まるぶん
プロジェクトArita
座長・寺内信二氏(李荘窯)
徳永隆信氏(幸楽窯)


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