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色鍋島から薄墨へ
人間国宝 13代今泉今右衛門展

<会期:平成15年10月1日〜10月6日>
平成15年10月1日

 「鍋島」の世界に新しい風を吹き込み、「薄墨・吹重ね」という独特の技法を確立させた故13代今泉今右衛門氏。人間国宝でもある同氏の作陶の歩みを振り返る回顧展が今秋開催されています。その福岡巡回展の初日におじゃましてきました。場所は福岡天神・岩田屋。会場には同氏が影響を受けたとされる古陶磁を含め、160点ほどの作品が6つのブースに分かれて、はれやかに並んでいました。会場に入ってまず驚いたのは、ほとんどの作品がガラス越しではなく、じかに作品を見ることができること。文様の細やかさや、釉薬の色のグラデーションなど細部もダイレクトに伝わり、作品の呼吸までも感じながら鑑賞している気分になりました。それではブース順にご紹介していきましょう。

 「1.色鍋島」では、江戸時代に制作された「鍋島」の古陶磁作品が10点展示。そのほとんどが、13代今泉今右衛門氏の制作に多きな影響を与えたのだとか。もちろん、この古陶磁をヒントに制作された作品も展示され、伝統意匠の継承とそこから新しい意匠感覚を生み出していく過程などを知ることができます。
 「2.日本伝統工芸展出品以前」では、氏が30代の頃に制作していた作品が並んでいました。鍋島とはちょっと違った雰囲気の作品で、このように公開されることはおそらく初めてではないかと思います。1960年頃の作品ですが、このころの氏は西洋の芸術家ブラックやルオーの影響を受け、また色鍋島の厳格さに反発していたと言われます。作品「樹立」は白と青のコントラストをいかしながら、単純な平面構成の意匠を立体に取り入れている作品。私たちがよく知る同氏の作品とは一味違います。

 次の「3.日本伝統工芸展等出品作品」では、1965年から各展へ出品された代表的な作品が並び、故13代今泉今右衛門氏の技法の変遷を凝縮して見ることができます。1969年国際陶芸ビエンナーレ展出品作「色絵かるかや文鉢」は、秋の七草の一つである「かるかや(すすき)」を躍動感溢れる構成で表現した作品です。これは色鍋島の古陶磁である「組紐文皿」の構図に影響を受けた作品だそうです。色鍋島の卓越した構図をいかしつつ、いままでにはないモチーフを取り入れることで、新しい「鍋島」の世界を展開していく同氏の取り組みをうかがうことができます。

 そして次の「4.13代襲名以後」コーナーからは、13代襲名以後の作品を年代を追いながら細かくその変化を見ていくことができます。故13代今泉今右衛門氏が色鍋島の世界に新たに取り入れた技法「吹墨」、「薄墨」、「緑地」そして、鍋島的な意匠から写実をもとにした意匠。さらに更紗文風な意匠を取り入れるまでの変遷を追う展示内容です。「吹墨」とは水に溶いた絵具や呉須(ごす)を、霧吹きなどで素地面に吹き付ける絵付け技法で、古伊万里の作品にも見ることができます、同氏はこれを鍋島のバック地として取り入れ、さらに「薄墨」へと発展させていきます。これは「吹墨」の技法の際に、呉須のかわりに薄墨色の絵具を用いたものです。色絵磁器の世界でははじめての技法であり、グレーというモダンで斬新な作風が話題を呼びました。この「薄墨」の技法を用いた作品「色絵薄墨露草文大鉢(1981年)」は、薄墨をバックにリズミカルな配置で露草が描かれています。展示されていたのは、1981年当時、日本陶芸展で最優秀作品賞を受賞した作品の姉妹品。今でこそ、同氏といえば「薄墨」と代名詞にもなっているほどですが、ここに至るまでは技法的な苦労や、新しい表現世界への反発なども多々あったのだそうです。
 故13代今泉今右衛門氏の作品には、その独特の技法とともに、更紗風の文様もよく知られています。この更紗風文様を取り入れるきかっけとなった作品も展示されていました。「色絵辻が花薄墨蝶文花瓶(1986年)」です。辻が花とは染織の一種で、女性には着物などで人気の高いものです。この染織の意匠をどうにか、磁器の世界でも表現できないかということで生まれた作品なのだそう。この作品以後、和の世界からエキゾチックな更紗文様が作品に展開していくことになります。

 「5.重要無形文化財(人間国宝)認定以後」のブースでは、「吹墨」と「薄墨」を重ね合わせる同氏オリジナルの「吹重ね」という技法の作品を見ながら、現代の色鍋島の世界の確立を見ることができます。「吹重ね」とはまず下絵付けをした作品に、主な文様にだけ吹墨を施します。そしてその上全体に薄墨を重ね合わせることで、吹墨の呉須の青色から薄墨のグレーへの微妙なグラデーションが美しくそして深い色の世界を生み出す技法。この技法を用いた作品「色絵吹重ね珠樹文花瓶(1995年)」は、美しいグラデーションの中に、バックの地紋は平面的で斬新な絵付けがなされています。実はこの地文様の表現は、西洋の画家・クリムトの作品に影響を受けたものだそう。パリ展の際に訪れた美術館で、クリムトの作品に出会った同氏は、文様の装飾的な表現を磁器にも取り入れてみてはどうかと、試みたという作品なのだそうです。最後のコーナー「7.香合、香炉など小物」では、法隆寺の聖徳太子像のためにつくられた三具足の姉妹品や、英国ロイヤル・クラウンダービーとの共作などが展示されていました。

 またよりよく作品の世界を知ることができるよう、色鍋島の制作工程の紹介や、同氏のインタビュービデオ上映なども開催。そして日本画家・加山又造氏との合作という珍しい作品も展示され、故13代今泉今右衛門氏の美の世界をあますとこなく堪能できる展覧会でした。
同氏が晩年に至るまで、つねに新しい創造を開拓していったこと。そしてその影では、常に様々な異なる美の世界への興味も尽きなかったことを知ることができ、同氏が常に真摯な心でものづくりに取り組まれていたことに感動しました。

■お知らせ
この展覧会の次の巡回は大阪が予定されています。
・人間国宝 十三代 今泉今右衛門展
・会場 大阪なんば高島屋(大阪市)
・会期 平成15年10月22日〜10月27日
また大阪なんば高島屋では10月22日〜10月28日の期間に「襲名記念 十四代 今泉今右衛門展」も開催される予定で、注目を集めています。お近くの方はぜひおでかけになってみてはいかがでしょうか。

以後の巡回は下記の予定です。
・人間国宝 十三代 今泉今右衛門展
・会場 松坂屋美術館(名古屋市)
・会期 平成16年1月17日〜1月27日

・人間国宝 十三代 今泉今右衛門展
・会場 丸井今井(札幌)
・会期 平成16年4月15日〜4月20日

●福岡岩田屋
【所在地】 福岡市中央区天神2-11-1
【電 話】 092-721-1111

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