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14代今泉今右衛門氏 Vol.6 14代今泉今右衛門さん
■14代今泉今右衛門■Profile
1962年 佐賀県有田町に生まれる
1985年 武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科(金工専攻)卒業
1988年 京都・鈴木治先生に師事
1990年 有田・父、13代今泉今右衛門の許、家事に従事
1998年 佐賀銀行文化財団新人賞受賞
日本伝統工芸展工芸会会長賞受賞
佐賀新聞文化賞奨励賞受賞
2002年 2月に14代今泉今右衛門を襲名

 若手陶芸作家として活躍されていた今泉雅登さんが、平成14年2月に14代今泉今右衛門を襲名。色鍋島という伝統を守る窯主、また現代陶芸作家として今後どのような活動をされるのか、注目されている作家の一人である。有田は赤絵町の中心にある、1830年頃に建てられたという今右衛門家の戸をくぐると、にこやかな今右衛門さんに出迎えていただいた。

―この度はご襲名、おめでとうございます。今後の「14代今泉今右衛門」としてのご活動に、みなさん注目なさっていることと思いますが。

 はい、ありがとうございます。この2月に14代を襲名させていただきましたが、私としては確固たる作品ができあがった時こそ、本当の意味での襲名だと思っております。来年には襲名披露の作陶展も予定しておりますので、とにかくがむしゃらに作陶していくつもりです。ここしばらく取り組んでいる「墨はじき」を重ねる技法を、今後も追求し続けていこうと思っています。また鍋島の伝統や、父(人間国宝・故13代今右衛門氏)が確立しました、「吹墨、薄墨」も自分の技法のひとつとして取り入れることができればと考えています。

―今右衛門窯というと、江戸時代から続く色鍋島という伝統がありますが、この伝統の継承と現代作陶との融合について、どのようにお考えでしょうか。

 そうですね、今日まで続いている伝統というものは、各時代の作り手たちが表現しようとした「美」に必要とされていたので続いているものだと思うのです。つまりいいものを作っていきたいという繋がりが、結果として伝統になっていくものではないでしょうか。ですから伝統技法の作品を作るというだけではなく、現代の自分の「美」の表現のために、伝統技法を取り入れるといったスタンスが大事なのではと思います。

―なるほど、そういった中で先ほどお話にあった墨はじきの技法を取り入れられていらっしゃるのですね。ところで、どうして墨はじきを重ねるという技法を思いつかれたのですか?

 しばらく京都にいました時に、大阪の東洋陶磁美術館にかよっていた時期がありまして、ここに展示されている高麗青磁の作品が持つ、すい込まれていくような緊張感に大変感動し、せっせとかよっていたんです。この時に、表面だけではなく物の中心にすい込まれていくような深い作品をつくりたいと思ったのが、現在の作陶の原点になっています。そこで試行錯誤し、墨はじきの技法を何回も何回も重ねることで、染付の深い色合いが私の求めているものを表現できそうだと思ったわけです。

―先日、第48回日本伝統工芸展※でも、作品を拝見しましたが深く微妙な色合いが神秘的でした。

 あの深い緑色と微妙な色合いの変化は、実は印刷会社さん泣かせらしいです(笑)。緑の色が丁度インクの掛け合いでは表現できない色なんだそうです。

―ところで、今右衛門さんは大学で金工を専攻なさっていたそうですが。

 はい、もともと立体造形やクラフトデザインを勉強したくて美術大学へ行ったのですが、現代彫刻にとても興味を持ち、ちょうどこの頃、鈴木治先生の作品を見て、陶芸でもこんな現代美術の表現ができるのかと感動しました。たまたま金工専攻の先輩に現代彫刻に取り組んでいる方が多く、また金属という扱いにくい素材にも興味があったんです。もちろん父は「陶器を勉強する方へすすんでもいいのでは。」とアドバイスをしてくれましたが、きかん坊だったもんで(笑)。
その後、鈴木先生のもとで技術はもちろん、展覧会の内容や、おいしい蕎麦屋さんのこと、歌舞伎のこと、といった文化や生活を含めたお話をたくさん伺えたことが私にとってはとても良い体験でした。実際に休みの日に、先生から聞いたところへ出かけると、自分の知らないものに出会うんですね。先生の言葉を通じて、新しい世界を見ることができ、文化や生活を通して人間性を高めることも重要だということを教えていただけて、貴重な時間を過ごせたと思います。幸せで豊かな気持ちを持った作家が作った作品は、やはり人にそれが伝わるものだと思います。

―私たちのように、「鑑賞する側」の場合はどうやって感覚を高めたら良いのでしょうか。

 そうですね、ついつい人は物の金額や知識でもって自分の感覚を見失いがちです。まずは自分の気持ちに素直であることが大切だと思います。しかしそれだけでは一人よがりになってしまいますので、他人の言葉にも素直である必要があります。私も行う方法ですが、展覧会へ出かけたときに自分が好きだと思う作品をひとつ選びます。何度も足を運んでいくと、その度に違うものが好きだったり、また同じものがやはりいいなと思ったりするはずです。その時になぜ、自分はそれを選んだのかを考えることが、自分の美意識を高める勉強になります。

―鑑賞だけではなく、日常生活にも通じるお話ですね。ところで、陶芸以外で何かご趣味は?

 ハーブを育てたり、季節の料理を作るのが趣味ですね。友人と「お酒の会」などを催すことがありますが、季節にあった食材や盛り付けを工夫してみたり、楽しいテーブルセッティングを考えたりしています。料理を人に振舞うということも、人に自分の気持ちをどう伝えるかということと同じだと思うんですよ。日々の生活の中でも気持ちを込めてつくったものは、相手にその心が伝わるものです。
また料理の盛り手となった時に、この器にどんな料理をつくるかという、器の作り手への対決みたいな心構えで作った料理は強くいいものになります。

―ちなみにお得意のメニューは何ですか。

性格があらわれるのか、時間をかける煮込み料理などが得意なんですよ(笑)。


 色鍋島の器や、先代である13代今右衛門氏の作品に囲まれた展示室でお話を伺った。鍋島の作品は、精緻で緊張感のあるデザインだが、不思議と心落ち着くものがある。墨はじきの作品や試作品を前に、熱心に説明してくださる今右衛門さんの言葉のひとつひとつにも、鍋島のような誠実で背筋が伸びるような気を感じた一日だった。


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インタビューの模様1
インタビューの模様2

※このインタビューは2002年に行ったものです。
photo ■14代今泉今右衛門氏・今右衛門窯
西松浦郡有田町赤絵町2-1-15
JR有田駅から車で3分
第1日曜が店休日
電話0955-42-3101
展示室・今右衛門古陶磁美術館を併設。(美術館は月曜休館)
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