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―作陶55周年― 中里重利展
<会期:平成15年1月29日〜平成15年2月3日>
平成15年1月29日

 1月29日、九州地方は強い寒気の影響で、平野部でも積雪や凍結にみまわれました。この悪天候で、長崎自動車道などの高速道路が通行止めになったり、JRのダイヤが乱れるなど交通機関にも影響がでた一日でした。そんな中、道中の交通をちょっと心配しながらも、福岡のデパート「大丸」で開催されている「―作陶55周年― 中里重利展」へ出かけてきました。中里重利さんは、唐津在住の唐津焼作家。茶陶の作り手の第一人者として活躍されている方です。今回の個展は作陶生活55周年を記念して行われ、広い会場に新作はもちろん、これまでの作品もふくめて約150点もの作品がずらりと並び、伝統的な茶陶からオブジェ作品とバラエティ豊かな顔ぶれとなっていました。非常に寒い朝だったにもかかわらず、会場は自ら作品の解説をされる中里さんと、多くの陶芸ファンで熱気に包まれていました。

 「今回の55周年というのを迎えて、自分ではそう大げさに心の切り替えみたいなものはないのですよ。昔からやりたいことを取り組み続けていますから、今後もそのスタンスで望んでいきたいものです。」と温和な笑顔で静かに話される中里さん。今回は様々な取り組みを見ていただくためにと、幅広い作品を出展なさったのだそうです。その中でも異色の作品が「辰砂面取花入」。土肌を楽しむ唐津焼の中に、ひとつぽつんと白い輝きをはなつ瓶に、私も目が吸い寄せられます。これは中里さんの中でも非常に珍しい「磁器」の作品。よく見る白磁とは少し違い、からりとした白に鋭角でありながらも柔らかさを感じさせる面取りが不思議と調和しています。中里さんの好きな李朝白磁をイメージして、20年ほど前に制作されたものだそうです。

 茶碗や花入など伝統的な作品が並ぶ中、空想の世界に迷いこむようなオブジェ作品もあります。同じく唐津の土、唐津焼の手法によるものですが、独創的な形や装飾法でずいぶん作品の印象も変わってみえます。「オブジェなどの作品は、自分の夢の中のイメージを手で作りだしていますね」と中里さん。新作でもある「俵形花入」は、見る角度によって印象が変わる実にユニークで、ほほえましさまでも感じるような作品です。作品を真正面から見ると、たっぷりとした量感と、無駄を省いた形が李朝時代の花入を思い出します。作品を側面から見ると、なにやら脚と耳を思わせるような動物らしき姿が見えてきます。ボリュームのある胴はそのまま動物の体に見えてきます。「これはペルシア土器をイメージしてつくったものです。土器の中にはまさに動物を象ったユニークな作品があるんですよ。私もそれが気にいって、ちょっと自分のイメージでも作ってみたいなと思って取り組んだものです。」と中里さんも少し楽しげに解説くださいます。作品の小さな脚は今にもステップを踏みそうな軽やかさで、その遊び心が見る人をほっとさせてくれるような空間を演出しています。

 茶陶の作品では、茶入・茶碗・水指などがあり、唐津焼の伝統的な技法を使って様々な表情を見せてくれました。中里さんの解説を聞きながら、「どうぞお手にとって見てください」と即されながら、茶碗に見入るファンの方も。実際に作者の方のお話を聞きながら、作品と触れ合うことができるのも「個展」の魅力であり醍醐味でもあります。私が手にとらせていただいたのは「唐津三作茶碗」という少し小ぶりの作品。器の正面には鉄絵で描かれた草文があります。表面にしっかりとしたろくろ目の跡があり、これが風を感じさせ、まるで草が風になびきそよめいているようです。絵唐津の作品かと思いきや、中を覗いて見ると、斑唐津に使用される藁灰釉が施されています。まったりとした黄色がかった白に、細かい斑点が見え、天の川のような幻想的な空間。また絵が描かれている反対面には朝鮮唐津に用いられる黒い釉薬、飴釉がさらりと流れています。作品名の「三作」というのは、絵唐津・斑唐津・朝鮮唐津の三種のことだったのです。一つの器に様々な技法を取り込みながらも、決して大げさでも派手でもなく、むしろしっくりとくる自然な馴染み方に新鮮な驚きを感じました。この馴染み方はどこから来るのでしょうか?何度もその茶碗の前に立ち戻りました。

 この他にも徳利や盃などの酒器や、鉢類などの食器も展示されており、中里さんの表現世界を堪能できる展覧会となっていました。様々な種類、技法の作品が並んでいましたが、不思議と楽しく和んでしまうような気持ちになりました。2年半ほど前に中里さんの窯を訪問させていただいたことがあるのですが、その時作品から受けた印象とはまた違った新鮮な感動を受けました。作品それぞれが放つ「力」が見る人を包み込むようなオーラとなっていたからではないでしょうか。

※「あの人に会いたい 中里重利さん」編はこちら→
※「佐賀県の陶芸作家 中里重利さん」編はこちら→

※ご注意:個展にても作品を触れるのを禁じている場合もあります。手にとる際には必ず係りの方、作家さんに了承を得てからにしましょう。

■取材雑記
 展覧会の入口では、叩き技法でつくられた大きな二つの壺が出迎えてくれました。そのあたたかさと和やかさに「おや?」と思いながら中へ足をすすめました。すらりと作品が並ぶ展示会場も実におだやかな空間となっています。作品の持つ「力」がこれほど空間に影響を与え、これほど優しく伝わってくるのには、正直驚きました。手仕事から生み出される「物」の魅力に改めて、はまってしまいそうです。

●博多大丸
【所在地】福岡市中央区天神1丁目4-1
【電 話】092-712-8181(代表)
【営業時間】10:00〜20:00